相続放棄について
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●相続放棄とは何ですか?
相続人が,被相続人の権利や義務を一切受け継がないようにする制度です。
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●どのような場合に相続放棄がなされますか?
被相続人の借金などの消極財産が積極財産を上回る場合,相続放棄をして,被相続人の消極財産の支払義務を負わないようにするためになされるのが一般的です。
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●相続放棄はいつまでにすればいいのですか?
自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に,家庭裁判所に放棄することを申述して行います。なお,相続開始前に相続放棄をすることはできません。
また,最高裁判所昭和59年4月27日判決によると,「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,このように信ずるについて相当な理由がある場合には,民法915条1項所定の期間(3か月)は,相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算する」とされています。
よって,被相続人が亡くなったことを知ってから3か月を経過した後に,被相続人に多額の債務があることを被相続人の債権者からの連絡で知ったような場合は,債権者からの連絡で知ってから3か月以内であれば,相続放棄ができる可能性がありますので,あきらめないで下さい。 -
●相続放棄の効果はどのようなものですか?
相続放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなされます。放棄をした者について存在しなかったものと考えればよく,放棄をした者の子も相続することはできません。
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●相続放棄は,相続分や相続人の範囲に影響しますか?
影響します。
例えば,相続人が配偶者と子2人(A・B)の場合,相続分は配偶者が1/2,Aが1/4,Bが1/4ですが,配偶者が相続放棄をするとA・Bの相続分はお各々1/2となります。
また,上記の例で,子A・Bも相続放棄をすると,被相続人に父母がいれば,第2順位の父母が相続人となり,又,父母が既に亡くなっていて被相続人に兄弟姉妹がいれば,第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。亡くなった人に多額の債務があった場合には,配偶者と子が相続放棄をする可能性が大きいので,被相続人の両親や兄弟姉妹も相続放棄を念頭に入れる必要があります。
なお,この場合も,相続放棄ができる期間は,「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内」です。とは言え,事実上は,先順位の相続人が相続放棄をしたことを知ってから3か月以内になることが多いと思われます。 -
●相続放棄をする期間を延長することはできますか?
3か月の期間が経過する前であれば,相続財産の有無やその状況を調査するため,家庭裁判所に対して,相続放棄をするための期間延長を請求し,家庭裁判所が審判により期間を伸長することができます。
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●相続財産の一部を処分してしまいましたが,被相続人の財産が債務超過の状況でしたので,相続放棄をしたいのですが,できますか?
相続人が,限定承認(相続人が遺産を相続するときに相続財産を責任の限度として相続すること)や放棄をする前に相続財産を処分すると,単純承認(被相続人の権利義務を承継することを相続人が無限定に承認すること)をしたとみなされます。よって,単純承認とみなされると相続放棄をすることができないことになりますが,相続の開始した事実を知らずになされた処分行為や葬祭費用として相続財産から支弁した場合など,単純承認とみなされない可能性もありますので,あきらめないで下さい。
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●事務所では相続放棄の申述の事件を担当した経験はありますか?
あります。相続放棄をする期間の伸長の措置をとった後に相続放棄の申述をした事例もあります。
遺留分放棄について
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●遺留分放棄とは何ですか?
相続権を失わずに遺留分権のみを喪失する制度です。
なお,遺留分権は相続権を前提としますので,欠格・廃除・相続放棄などで相続権を失った場合は当然に遺留分権を失います。 -
●どのような場合に遺留分放棄がなされますか?
例えば,被相続人の生前に,多額の生前贈与を受けた相続人について,遺留分を放棄してもらうことがあります。又,被相続人が死亡した後に,遺留分減殺請求をして相続人間で揉めるようなことをしてほしくないという被相続人の意思を尊重して,一部の遺留分権者が遺留分の放棄をすると言うことの意味もあります。
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●遺留分放棄はどのようにすればいいのですか?
被相続人の生前は,家庭裁判所に遺留分放棄の許可の申立てをし,家庭裁判所の許可を得ることによって放棄できます。家庭裁判所は,遺留分権利者の真に自由な意思に基づくものであるかどうか,かつ,その理由が合理性もしくは妥当性,必要性ないし代償性を具備しているかどうかを考慮して,許可するかどうか判断します。他方,被相続人の死亡後は,自由に放棄することができ,裁判所の許可は不要です。
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●遺留分を放棄すると相続権も失いますか?
相続の放棄ではないので,相続開始後は相続人となります。
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●遺留分放棄によって,他の遺留分権者の遺留分は増えますか?
増えません。
被相続人が自由に処分できる相続財産の範囲が増加するだけです。
例えば,相続人が配偶者と子2人(A・B)の場合,遺留分の割合は,配偶者が1/4,Aが1/8,Bが1/8ですが,AとBが遺留分を放棄しても,配偶者の遺留分は1/4のままで増加しません。但し,遺留分権者全体に残される遺留分の割合が,A・Bが遺留分を放棄する前は1/2(1/4+1/8+1/8)ですが,A・Bが遺留分を放棄した後は1/4となります。結果,被相続人が遺言によって自由に処分できる割合(遺留分の侵害を考慮しなくてもいい割合)が1/2から3/4に増加するのです。 -
●事務所では遺留分放棄を担当した経験はありますか?
あります。
相続欠格・廃除について
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●相続欠格とは何ですか?
民法第891条に定める5つの事由(相続欠格事由)が相続人にある場合に,当該相続人の相続権を剥奪する制度です。
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●相続欠格事由には,どのような事由がありますか?
① 故意に,被相続人または先順位・同順位の相続人を死亡させ(未遂犯を含みます),刑に処せられた者
② 被相続人の殺害されたことを知って,告発・告訴しなかった者
③ 詐欺・強迫によって,相続に関する被相続人の遺言の作成・撤回・取消・変更を妨げた者
④ 詐欺・強迫によって,被相続人に,相続に関する遺言の作成・撤回・取消・変更をさせた者
⑤ 相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
なお,相続欠格は,法律上当然に相続権を剥奪するという強力な制度であることから,上記事由に該当するかどうかの判断については,厳格的になされることが多いです。 -
●相続欠格者がいる場合の相続手続はどのようになるのですか?
ある相続人に相続欠格事由があることを証明する必要があります。欠格者が欠格事由を認めている場合は,その者に欠格証明書を作成してもらいます。欠格者が欠格事由を認めていない,または欠格証明書作成に協力してくれない場合は,民事訴訟(共同相続人全員が,相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えを裁判所に提起して,判決を得る)で欠格事由の存在を確定させ,その判決書で証明します。また,欠格事由が被相続人の生命侵害に関わる場合には,刑事裁判の判決書で証明します。
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●相続欠格の効果はどのようなものですか?
相続欠格事由が相続開始前に生じた場合はその時から,相続開始後に判明した場合は相続開始時に遡って,その者の相続資格が法律上当然になくなります。よって,欠格者が加わってなされた遺産分割協議は無効であり,審判による分割も無効となります。また,相続欠格者は遺贈を受けることもできません。但し,相続欠格の場合に代襲相続が認められるので,欠格者に子があれば,欠格者に代わってその子が相続人となります。
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●相続人の廃除とは,何ですか?
被相続人が,ある相続人に財産を相続させたくないのももっともだと思われるような事由がある場合に,被相続人の意思に基づいて家庭裁判所がその相続人の相続権を剥奪する制度です。
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●廃除事由にはどのようなものがありますか?
① 被相続人に対して虐待をし,もしくは重大な侮辱を加えたとき
② 推定相続人にその他の著しい非行があったとき -
●廃除の手続はどのようなものですか?
被相続人が家庭裁判所に廃除を請求するか,遺言で廃除の意思を表示することによってされます。遺言による廃除の場合は,遺言執行者が被相続人死亡後遅滞なく廃除の請求を家庭裁判所に対してしなければなりません。
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●廃除の効果はどのようなものですか?
生前廃除の場合は,廃除の審判が確定したときから,遺言廃除の場合は,相続開始時に遡って相続権を失います。ただし,相続欠格の場合と異なり,被廃除者は,被相続人から遺贈を受けることはできます。
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●廃除を取消すことができますか?
被相続人は,家庭裁判所の審判によって,いつでも廃除を取り消すことができます。
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●事務所では相続人の廃除を担当した経験はありますか?
あります。