寄与分について
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●寄与分とは何ですか?
寄与分とは,共同相続人中に,被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をした者がいる場合,その寄与を評価して,特別の寄与をした相続人の相続分を増加させる制度を言います。
※相続人以外の者の貢献を考慮するための規定新設について(施行は2019年7月1日)
・改正前は,寄与分は相続人にのみ認められ,相続人以外の者の貢献を考慮する制度はありませんでした。しかし改正法は,被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(六親等内の血族,配偶者,三親等内の姻族)を「特別寄与者」として,特別寄与者は,相続開始後,相続人に対し,特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができるものとの規定を設けました(民法1050条1項)。
・特別寄与料の支払について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。但し,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき,又は相続開始の時から1年を経過したときは請求することはできません(民法1050条2項)。
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●寄与分を受けることができるのは共同相続人に限られますか?
はい(民法第904条の2第1項)。
共同相続人でない包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有しますが(民法第990条),共同相続人ではない以上,寄与分を認めないのが多数説です。他方,共同相続人である以上,代襲相続人には寄与分が認められます。この場合,代襲相続人は,被代襲者の寄与分だけでなく,自らの特別の寄与分も 主張することができます。
以下,登場人物として,被相続人を甲,甲の子をA,Aの子(甲の孫)をaとして代襲相続人と被代襲者を説明します。
※代襲相続人:被相続人が死亡する前に,被相続人の子や兄弟姉妹が,死亡・欠格・廃除によって相続権を失った場合の,その者(被相続人の子や兄弟姉妹)の子
EX. 甲が死亡する前にAが死亡した場合のa
※被代襲者:被相続人が死亡する前に,被相続人の子や兄弟姉妹が,死亡・欠格・廃除によって相続権を失った場合の,その者(被相続人の子や兄弟姉妹)
EX. 甲が死亡する前にAが死亡してaが代襲相続人となった場合のA
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●相続人の配偶者(被相続人の子の配偶者)や子供(被相続人の孫)の寄与を考慮することはできませんか?
共同相続人でない以上,寄与分を主張することはできません。但し,相続人と共に,被相続人の財産の維持・増加に貢献した場合には,相続人の履行補助者による寄与として,その相続人自身の寄与にあわせて,これらの者の寄与を主張することができるとするのが実務です。履行補助者による寄与とは,相続人の寄与と同視することができるような寄与を言い,
具体例としては,被相続人を甲,甲の子をA,Aの子をa,Aの配偶者をXとすると,
① 甲は,生前,自家営業と営み,Xは,無報酬でAと共に家業に従事して,甲の財産の維持・増加に貢献した
② aとXは,Aを補助・代行し,甲を長期にわたり看護・介護をして,甲の財産が減少するのを防いだ
などのような場合です。
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●被相続人の財産の維持・増加に貢献する相続人の寄与行為にはどのようなものがありますか?
① 被相続人の事業に関する労務の提供や財産上の給付
EX. 農業や家業など被相続人の事業に相続人が従事して労務を提供した場合
EX. 被相続人の事業のために,資金を提供したり債務を弁済した場合
② 被相続人の療養看護
EX. 相続人が被相続人の療養看護に従事した場合や療養看護の費用を負担した場合
③ その他の方法によりなされた被相続人の財産の維持・増加についての特別の寄与
EX. 被相続人所有の不動産の賃貸管理や維持・修繕,公租公課の負担など財産管理行為によって,不動産の維持・増加に寄与した場合
EX. 被相続人に対し,生活費や不動産維持費用を支弁し続け,結果,不動産を処分せずに済んだ場合
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●「特別の寄与」とはどのような寄与のことですか?
被相続人と相続人との身分関係において,通常期待される程度を超える貢献であること,寄与行為に対して,これに見合う相当な対価が支払われていないこと,が必要です。通常期待される程度を超える貢献とは,夫婦であれば夫婦間の協力扶助義務(民法752条)や,直系血族・兄弟姉妹であれば,それらの間の扶養義務(民法877条1項)に基づく通常の相互扶助の程度を超えた貢献を言います。
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●寄与分の額に上限はありますか?
寄与分の額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません(民法第904条の2第3項)。よって,遺産全部が遺贈された場合には,寄与分は認められず,寄与をしたとされる者は,遺贈を受けた者に対し,遺留分のみが主張できるにとどまります。
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●寄与分はどのようにして定まりますか?
寄与分は,共同相続人間の協議で定めることができます。共同相続人間の協議が整わない場合や協議ができない場合は,家庭裁判所に対し,寄与をした相続人は,寄与分を定める処分調停の申立て,又は寄与分を定める処分審判の申立てをして,家庭裁判所が寄与分を定めます。寄与分を定める調停の申立は,寄与分を定める調停の申立てのみすることができます。これに対し,寄与分を定める審判の申立は,遺産分割審判の申立又は相続の開始後に認知された者の価額支払請求(遺産分割終了後に認知されて相続人となった者について,相続分に応じた価額の支払いを求める請求)があった場合にのみすることができます。但し,実務では寄与分のみにかかわる調停,審判の申立をすることは少ないと思われます。
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●寄与分がある場合,具体的な相続分はどのように算定されますか?
以下の計算式で算定されます。
1.相続財産の価額から寄与分額を控除し,これをみなし相続財産とする
2.みなし相続財産に各相続人の法定相続分(相続分が遺言により指定されていた場合は,その相続分)を乗じる
3.寄与をした者について,「2.」の額に寄与分額を加算する。
具体例で説明すると,相続人が配偶者と子2人(A・B),相続財産が4000万円,Bに1000万円の寄与分が認められた場合の各人の具体的相続分は,
みなし相続財産 4000万円-1000万円=3000万円
各相続人の具体的相続分は,
配偶者 3000万円×1/2=1500万円
子A 3000万円×1/4=750万円
子B 3000万円×1/4+1000万円=1750万円
となります。
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●事務所では寄与分に関する事件を担当した経験はありますか?
あります。
特別受益について
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●特別受益とは何ですか?
特別受益とは,被相続人から共同相続人に対して遺贈された財産,及び,婚姻や養子縁組のため,もしくは生計の資本として贈与された財産を言います。共同相続人の中に,被相続人から遺贈や生前贈与を受けた者がいる場合,現に存在する遺産のみを対象として法定相続分や指定相続分に従って遺産分割をしたのでは,共同相続人間の公平を欠くことになります。そこで,遺贈や生前贈与は相続分の前渡しと考え,相続財産に加算して(特別受益の持戻し)各相続人の具体的相続分を算定するのが特別受益の制度です。
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●被相続人から贈与を受けた場合の他に,特別受益として遺産分割を処理する場合がありますか?
被相続人の預貯金について,相続人の一人が預金を出金した場合,その相続人に贈与されたのか,その相続人が無断で出金したのか明らかでないこともあります。このような場合でも,実務では,出金した相続人以外の相続人が,贈与として扱うことに合意し,出金した相続人に対しては特別受益の扱いとすることも少なくありません。
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●特別受益に時効はありますか?
民法第904条の3(2023年4月1日施行)によれば,相続発生から10年経過後は遺産分割において特別受益(寄与分も)が適用されないことになりました(なお,相続人全員が同意をしているのであれば,この限りではありません。)。つまり,特別受益について時効が存在するということになりました。
施行前に発生した相続についても,適用されますが,
但し,施行日より5年間の猶予期間が設けられているので,少なくとも2028年4月1日まではやはり全ての相続において特別受益(寄与分も)が適用されることになります。
また,①相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき,② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をした場合にも例外的に相続発生してから10年が経過しても、特別受益(寄与分も)適用されます。 -
●被代襲者が被相続人から特別な利益を受けていた場合,代襲相続人はこの特別な利益を持ち戻さなければなりませんか?
代襲者は,被代襲者の地位を代襲して取得するものゆえ,持ち戻さなければならないとするのが通説的見解です。
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●被相続人から特別な利益と受けた者が,後に,婚姻や養子縁組により推定相続人となった場合,この者はこの特別な利益を持ち戻さなければなりませんか?
持ち戻す必要があるとするのが通説的見解です。
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●相続人以外の者が被相続人から包括遺贈を受けた場合,包括受遺者はこれを持ち戻さなければなりませんか?
持ち戻す必要があるとするのが通説的見解です。
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●相続人の配偶者や子が被相続人から特別な利益を受けていた場合,これらの者はこの特別な利益を持ち戻さなければなりませんか?
持ち戻す必要はありませんが,実質的には被相続人から相続人が直接利益を受けたものと異ならないとみられるときには,持ち戻しの対象となる可能性もあります。
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●特別受益はどのようにして定まりますか?
判例により,ある財産が特別受益財産にあたるかどうかは,遺産分割申立事件,遺留分減殺請求に関する訴訟など具体的な相続分又は遺留分の確定を必要とする審判事件又は訴訟事件における前提問題としてのみ審理判断されます。
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●持戻し免除とは何ですか?
被相続人が,持戻しを免除するという意思を表示した場合には,特別受益を相続財産に加算しないとする制度です。遺贈についての持戻しの免除の意思表示は遺言の方式によらなければなりませんが,贈与についての持戻しの免除の意思表示は,特別な方式は要求されておらず,明示・黙示を問いません。なお,持戻しの免除が他の共同相続人の遺留分を害する場合,持戻し免除が無効となるものでなく,遺留分を侵害された相続人が減殺請求権の余地があるに過ぎないとするのが判例です。
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●特別受益がある場合,具体的な相続分はどのように算定されますか?
以下の計算式で算定されます。
1.相続財産の価額に特別受益たる贈与の総額を加算し,これをみなし相続財産とする
2.みなし相続財産に各相続人の法定相続分(相続分が遺言により指定されていた場合は,その相続分)を乗じる
3.特別受益を受けた者について,「2.」の額から特別受益額を控除する。
具体例で説明すると,相続人が配偶者と子2人(A・B),相続財産が4000万円,Bに1000万円の特別受益があった場合の各人の具体的相続分は,
みなし相続財産 4000万円+1000万円=5000万円
各相続人の具体的相続分は,
配偶者 5000万円×1/2=2500万円
子A 5000万円×1/4=1250万円
子B 5000万円×1/4-1000万円=250万円
となります。
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●事務所では特別受益の主張をした経験はありますか?
あります。