• ●遺言・遺言書とはなんですか?

    遺言とは,遺言者の死亡とともに,遺言者が生前にした意思表示どおりの効力を発生させて,その最終意思の実現を図るための行為をいいます。
    遺言書は,遺言者の最後の意思表示を書面にしたものです。

    ※相続の効力等に関する改正について(施行は2019年7月1日)
    改正前,相続させる旨の遺言等により承継された財産については,対抗要件の具備なくして第三者に対抗することができるとされていました。
    しかし,遺言の有無及び内容を知り得ない相続債権者・債務者等の利益を害することから,相続による権利の承継は,法定相続分を超える部分について対抗要件を具備しなければ第三者に対抗することができないとの規定が新設されました(民法899条の2第1項)。
    なお,相続させる旨の遺言等により承継された財産が債権の場合は,従前の対抗要件具備の方法に加えて,受益相続人による被相続人の債務者に対する単独通知によっても第三者に対抗することができるものとされました(民法899条の2第2項)。

  • ●遺言書にはどのような種類がありますか?

    遺言書には,大きく分けて①普通方式と②特別方式の2種類があります。
    ①普通方式の遺言書
     ・自筆証書遺言(民法967条)
     ・公正証書遺言(民法969条)
     ・秘密証書遺言(民法970条)
    ②特別方式の遺言書
     ・危急時遺言(一般危急時遺言:民法976条,難船危急時遺言:979条)
     ・隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言:民法977条,在船者遺言:民法978条)

  • ●自筆証書遺言を作成するメリットは何ですか?

    一人で作成できるため,手軽であり,また,何度書き直しても費用がかかりません。さらに,他人に知られることなく作成することができます。

  • ●自筆証書遺言を作成するデメリットは何ですか?

    遺言書に不備があれば遺言自体が無効になることがあります。そのため,後の紛争を避け,できるだけ遺言を確実なものとするためには,公正証書遺言によることをおすすめします。

  • ●自筆証書遺言作成の際の注意点を教えてください。

    遺言者が,全文、日付,及び氏名を自書し,印を押すことで完成します。
    ※ 自筆遺言証書の様式の緩和に関する改正について
    自筆証書遺言の財産目録について様式の緩和に関し,法律が改正されています(施行は平成31年1月13日)。
    今回の改正を踏まえても,遺言書本体ついては,手書き作成の必要がありますが,新しい法律では,遺言書に添付する財産目録については,手書きの必要がなくなり,パソコンでの作成や通帳のコピーなどの添付で足りることになりました。但し,添付書類には,すべてのページに署名・押印を要します。自書によらない記載が片面にある場合はロ油面に署名押印する必要があります。
    また,財産目録は,本文とは別の用紙で作成する必要があります。なお,保管状況等から,本文が記載された用紙と財産目録が記載された用紙とが一体のものと認められる必要があります。

  • ●自筆証書遺言を書き換えるにはどうしたらいいですか?

    自筆証書の書き換えは,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押すことにより,行う必要があります。なお,財産目録の書き換えについても,同様の方法で行う必要があります。(968条3項)。

  • ●自筆証書遺言の一部にパソコンやワープロによる印字や代筆があった場合,その遺言は有効ですか?

    無効です。
    自筆証書遺言の「自書」という要件は,文字通り遺言者が全ての部分を自分で書くことをいいます。これは,遺言書の偽造・変造を予防し,遺言者の真意に基づき作成されたものであることを担保することが目的になっています。
    ※ 但し,本ページ「5」の内「自筆遺言証書の様式の緩和に関する改正について」参照

  • ●手の力が弱く,遺言書を書く際に他人の手を添えて作成した遺言書は無効ですか?

    有効になる場合もあります。
    自筆証書遺言を作成するには,自書能力(文字を知り,かつ,これを筆記する能力)が必要になりますが,判例は「病気,事故その他の原因により視力を失い又は手が震えるなどのために,筆記について他人の補助を要することになったとしても,特段の事情のない限り,右の意味における自書能力は失われない」としています(最高裁判所昭和62年10月8日)。
    そして,同判例は,「遺言者が証書作成時に自書能力を有し,他人の添え手が,単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか,又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており,遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり,かつ,添え手が右の態様のものにとどまること,すなわち,添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが,筆跡のうえで判定できる場合には,「自書」の要件を充たすものとして」有効であると判断しています。ただ、このような作成の方法は,後に遺言の有効性を争われる可能性も高いので,公正証書遺言等を作成した方が良い場合もあるでしょう。

  • ●自筆証書遺言に押印する印鑑は実印でなければいけませんか?

    自筆証書遺言に使用すべき印鑑には,特に制限はないため,実印である必要はなく,いわゆる三文判や認印でも問題はありません。本文に押された印と別の印でも問題ありません。
    また,判例上,指印でもよいとされています(最判平成元年2月16日)。
    押印の場所も,法律上規定されていませんが,署名の名下にするのが通常とされています。自筆証書遺言は,その規定された方式で作成されないと無効になってしまう可能性もありますので,作成の際には,弁護士に相談をすることをおすすめします。

  • ●自筆遺言証書の日付は「〇年〇月吉日」という記載でも有効ですか?

    無効です。自筆証書遺言に日付の自筆が要求されるのは,作成時に遺言作成に必要な遺言能力の有無を判断するとともに,複数の遺言がある場合にその先後を決定するためです。そのため,暦日の記載がなくとも,「平成〇年敬老の日」や「満〇歳の誕生日」といったように,日までが特定できる記載であれば有効になります。「〇年〇月」や「〇月〇日」といったように年や日の記載がない自筆証書遺言は無効となります。

  • ●自筆証書遺言作成後,注意するべき点はありますか?

    作成者の責任で遺言書を管理・保管しなければいけないことです。そのため,遺言者が亡くなった時点で紛失してしまっている可能性もあります。また,遺言を何者かに偽造・変造される可能性もゼロではありません。
    ※ 自筆証書遺言の保管に関する改正について
    自筆証書遺言の保管に関し,法律が改正されています(施行は平成32年7月10日)。新しい法律では遺言の原本は法務局に保管されことが認められ,従前,自筆証書遺言に必要であった検認手続きの必要がありません。但し,遺言を預ける際,遺言者本人が法務局に行き,担当職員と面談の必要があります。

  • ●公正証書遺言を作成するメリットは何ですか?

    公証人が作成に関与するため,自書ができない人でも遺言書を作成できるとともに,その効力が問題になることも少ないです。しかし,遺言が無効とされることを防ぐことができることを考えると費用対効果は良いとも言えます。
    また,原本は公証人役場で,保管されるため遺言書の偽造・変造・紛失のおそれもありませんし,自筆証書遺言のように家庭裁判所の検認の手続きも不要となります。

  • ●公正証書遺言作成の際のデメリットは何ですか?

    公正証書遺言作成には手数料がかかります。また,作成にあたっては最低2名の証人の立ち会いが必要なため,秘密にしておきたい遺言の内容を証人,ひいては証人を通じて利害関係人に知られる可能性がゼロとは言えないことです。

  • ●その他,遺言書作成に当たって注意すべき点はありますか?

    ①共同遺言の禁止
    民法は,2人以上の人が一つの遺言書で遺言をする共同遺言を禁止しています。 遺言は,遺言者の自由な独立した最終意思でなされるべきであるため,共同遺言では他人の意思の影響を受けるおそれがあるからです。
    ②遺言能力
    遺言は満15歳に達しないと作成できません。 作成時に遺言の内容を理解し,その結果を弁識しうるに足りる意思能力が必要とされています。 また,成年被後見人であっても,事理を弁識する能力を一時回復した時には,医師2人以上の立ち会いがあれば遺言書の作成ができます。
    ③後遺言優先の原則
    内容が抵触する日時を異にした前後2個の遺言がある場合には,後の日付の遺言が優先します。 ここでいう「抵触」とは,前の遺言を失効させなければ後の遺言の内容を実現することができない程度に内容が矛盾していることをいいます。
    後の日付の遺言が前の日付の遺言に条件をつけたものであったり,前後の遺言が相互に全く無関係であったり,両立するものは有効になります。

    ※遺贈義務者の引渡義務の改正について(施行は2019年7月1日)

    改正前,不特定物を遺贈の目的とした場合,①受遺者がこれについて第三者から追奪を受けたときは,遺贈義務者は,これに対して売主と同じ責任を負い,②物に瑕疵があったときは,遺贈義務者は,瑕疵の無い物をもってこれにかえなければならないとされました(旧民法998条)。

    また,遺贈の目的である物・権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは,受遺者は,遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができないとされていました(旧民法1000条)。
    しかしながら,今回の債権法の改正で,贈与者の担保責任について,贈与者は,

    贈与の目的である物(特定物か不特定物であるかを問いません)・権利を,贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定する規定が設けられました(民法551条1項)。

    そこで,遺贈についても,贈与の担保責任に関する規律に従い,遺贈義務者は,遺贈の目的である物や権利を,相続開始時の状態で引渡し,又は移転する義務を負うとされました(民法998条)。

    そして,民法998条によれば,遺贈の目的物である物・権利が遺言者の死亡の時に第三者の権利の目的であっても,原則そのままの状態で引き渡せばよいことから,旧民法1000条の規定は不要となったので,削除されました。

    ※遺言執行者の権限等に関する改正について(施行は2019年7月1日)

    ・改正前,遺言執行者がいる場合に,相続人がこれを知る手段が確保されていませんでした。そこで,遺言執行者は,その任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならない,との規定が新設されました(民法1007条2項)

    ・改正前,遺言執行者の有する権利義務について,その目的が明らかではありませんでした。そこで,「遺言の内容を実現するため」の文言を追加して,遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するものとされました(民法1012条第1項)。

    また,受遺者による遺贈の履行請求の相手方を明確にする観点から,遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができるとの規定が新設されました(民法1012条第2項)。

    ・改正前の民法1013条及び判例によると,遺贈がされた場合について,遺言執行者があれば遺贈が絶対的に優先し対抗関係が生じないのに対し,遺言執行者がなければ対抗関係に立つことになるのですが,これでは,遺言の存否および内容を知り得ない第三者に不測の損害を与え,取引の安全を害するおそれがありました。そこで,旧民法1013条「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」との規定を1013条1項として,遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を図る観点から,善意の第三者を保護するために,「前項の規定に違反してした行為は,無効とする。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することができない。」旨の規定を新設しました。なお,この場合の保護要件については,第三者に遺言の内容に関する調査義務を負わせるのは相当でないことから,善意であれば足り,無過失は要求されていません(民法1013条2項)。・上記1013条2項が新設されたことにより,遺言執行者がいる場合には,相続人の債権者及び相続債権者が保護されるためには善意である必要があるという解釈が生じる余地があります。しかし,被相続人の遺言によって,相続人の債権者及び相続債権者が権利行使に時間・労力を要してしまうのは相当でないことから,相続人の債権者及び相続債権者が相続財産についてその権利を行使することを妨げないとの規定が新設されました(民法1013条3項)。・従前,対抗要件具備行為について,遺言執行者の権限であるかどうか明文の規定がありませんでしたが,対抗要件具備行為は,受益相続人にその権利を完全に移転させるために必要な行為といえることから,「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(特定財産承継遺言」)があったときは,遺言執行者は,当該共同相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」との規定が新設とされました(民法1014条2項)。なお,改正法の下でも,受益相続人が単独で登記申請することは妨げられません。

    また,特定の財産が預貯金債権である場合には,「遺言執行者は,当該共同相続人が対抗要件を備えるために必要な行為のほか,その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。」との規定が新設されました。但し,「解約の申入れについては,その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。」こととしています(民法1014条3項)。

    ・改正前,遺言執行者は相続人の代理人とみなされていましたが,権限を明確化する観点から,遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接に効力を生ずるものと改正されました(民法1015条)

    ・改正前,遺言執行者の復任権について,やむを得ない事情がなければ第三者にその任務を行わせることができませんでした。しかし,遺言執行者には十分な律知識を有していない者が指定されることも多く,遺言執行者の復任権の要件を緩和すべきであるとの要請がありました。
    そこで,「遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。」と改正し要件が緩和されました(民法1016条1項)。この場合,第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは,遺言執行者は,相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負います(民法1016条2項)。

    ※義務の承継に関する改正について(施行は2019年7月1日)
    ・旧民法は,902条で「相続人は,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる」と規定しているのみで,相続債務が存在する場合の規律については条文上明らかではありませんでした。そこで,判例法理に従い,「遺言により相続債務について相続分の指定がされた場合であっても,相続債権者は,各共同相続人に対し,法定相続分に応じた債務の履行を請求することができる」との規定が新設されました。なお,相続債権者側から,指定相続分に応じた義務の承継を認めることもできます(民法902条の2)。