• ●社員を採用するに当たり,犯罪歴や破産歴の有無を確認することは許されるのでしょうか。

    本人の同意がある場合,その他業務の目的の達成に必要不可欠等の正当な事由がある場合に許されると考えるべきでしょう。犯罪歴については,海外勤務などが頻繁である事業であったり,破産歴については,保険募集人及び損害保険代理店とその役員の登録,警備員の従事するような場合には,許容されるでしょう。なお,履歴書の賞罰欄の「罰」とは,確定した有罪判決を意味します。

  • ●採用後の経歴に関し詐称がなされた場合,懲戒解雇をすることが可能でしょうか。

    懲戒解雇が認められるためには,重要な経歴を詐称したことを要します。「社員の採否の決定や採用後の労働条件の決定に影響を及ぼすような経歴であり,当該虚偽の経歴について,通常の会社が正しい認識を有していたなら雇用契約を締結しなかったであろう経歴」を意味します。主に学歴,職歴,犯罪歴などがこれに該当しますが,「重要性」については,職種などによってもその判断が異なりえます。

  • ●当社では,就業時間中に朝礼,業務連絡,研修を行うこととしていますが,ある社員がこれらに全く参加しません。また,職場の飲み会にも全く参加しません。いずれも参加をさせたいのですが,どのように対応をすればよいでしょうか。

    朝礼,業務連絡,研修が業務の一環であれば,業務命令の一環として,参加を指示することができます。朝礼が就業時間内で業務連絡がなされる場合,業務遂行と不可分になされるものと評価できます。また,研修を受けることが,労働力の質を高め,技術力を高め,組織に適合したものにするために,とりわけ長期雇用を前提とする場合には,教育訓練が必要であることから,判例は,幅広く業務命令を認めています。
    他方,飲み会は社内の親睦を深めるために有効ですが,業務命令権が及ぶものでなければ参加を強制するのは法的には困難です。

  • ●従業員がPC周辺機器を持ち出して自宅で使用しているような場合,会社はどのような対応をするべきでしょうか。社のボールペンを会社内で私的な用事に使用することとどのような違いがあるのでしょうか。

    ここでのボールペンの使用は使用窃盗であり,刑法上は処罰の対象外です。他方,会社の備品を会社の承諾を得ることなく持ち帰り,これを使用することは,窃盗罪などが成立します。
    会社の対応としては,社員への所持品検査(プライバシー権侵害への配慮は必須)。他の社員へヒアリング(社員の調査協力義務が問題),発生場所に監視カメラを設置(プライバシー権侵害への配慮は必須。)などの調査を行い,懲戒処分(軽微な事案の懲戒解雇については,十分な留意を要します。)や事案の重さによっては刑事告訴についても視野に入る場合がありえるでしょう。

  • ●社員の1人が,自分のSNSにて,会社の業務に関して特定の者を名指しして否定的なことを書き込みます。どのように対応をするべきでしょうか。

    SNSの管理者に対して削除要請を行うことが考えられますが,投稿者が判明している場合には,まずはその者に任意に投稿の削除を求めることになります。これに応じず,投稿内容が悪質な場合には,解雇も視野に入れながら懲戒処分を検討することになります。就業規則中にSNS利用に関する規定を入れること,さらには,SNS利用に関するガイドラインを会社として作成しておくことなども望ましいでしょう。

  • ●当社は,高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラーエグゼンプション)を導入し,同年次の社員の給料の2倍としましたが,同社員の能力が一般の社員と比べても低調であることわかりました。会社として,どのように対応をすればよいでしょうか。

    まずは協議を行い,制度対象から除外することの同意を得ることを試みますが,これに同意しなかった場合,配転による異動を検討します。会社には配転命令権があり,それが人事権の濫用とされるような場合には許されませんが,逆に言えば濫用というべきものでなければ許される余地があります。ただし,本件配転では減給を伴うことからこの観点からの慎重な判断を要します。

  • ●入社6年目の営業職の社員に対し,事務部門への配置転換を命じたところ,拒否し,以降,出勤も拒否するようになりました。会社としてどのように対応をするべきでしょうか。

    配転の中で,同一勤務地内の勤務箇所の変更を「配置転換」と言い,勤務地の変更を「転勤」と言います。会社には配転命令権があり,これが有効なものとされるのであれば(有効性判断のポイントとして,当該社員についての職種限定契約の有無,配転命令権が濫用的でないことなどが必要です。),当該社員の欠勤は,労働契約上,労務提供義務が履行をしていないものとなります。新職場への就労を促しても就労を拒否する場合には,解雇を視野に入れた対応をすることになります。

  • ●当社は,残業について,残業後の社員の自己申告による管理をしています。ある社員が,必要もないのに居残り残業をして,残業時間として申告しています。他方,実際に残業をしているのに残業を申告しない社員があります。これらに者に対しては,どのように対応したらよいでしょうか。

    「労働時間」とは,社員が会社の指揮命令下に置かれている時間を言います。会社の指揮命令下になく,社員が私的活動等のために作業する時間は,「労働時間」ではありません。ただし,明示の承諾を得ていなくとも,上司が容認していたと言える場合,業務上やむを得ない事由がある場合には,黙示の残業と扱われるリスクがあります。
    本件のように,自己申告制については,あいまいな時間管理を誘発するリスクがあります。そのため,当該社員と業務上の必要性を確認し,翌日にできる業務は翌日に回すよう指示するなど,無駄な残業を排除することが肝要であり,残業は会社の指示があって行うものであること示す必要があります。指示に従わない場合は,残業禁止を命ずる業務命令を発する対応になります。
    他方,残業を報告しない場合など業務が社員の裁量で行われているからといって,時間外手当の支払義務を会社が負担しないというものでもありません。会社には,社員の申告した残業時間が実際の労働時間と合致しているかを確認する義務があり,未払い賃金があるのであればこれを支払い,今後必要な残業を行った場合は正確に申告するよう指導する等の対応を取ることは必要です。

  • ●業務に起因しない病気により休職していた社員が,休職期間が満了しても復職は困難であると申し入れてきました。この場合,どのように対応をすればよいでしょうか。

    復職困難の理由を確認し,それが個人的事情によるものであれば,休職期間満了までに復職できない以上,自然退職又は解雇を検討することになります。但し,その際には,会社が復職のための環境整備等の対応を取っているかを検討(従前の業務よりも簡易な他の業務での復職が可能かを検討することを意味します。)する必要があります。これを検討しても復職をすることができないと判断される場合,自然退職又は解雇と取り扱うことが適切です。なお,休職期間を延長するという判断については,これを安易に実施することは,休職期間を設けた意味を失わせるおそれがあります。また,上記は業務上の傷病の場合の取り扱いとは異なるものとなります。

  • ●不況のため受注が激減し,リストラの一環として勤務態度が芳しくない有期労働契約社員1名にリストラすることを伝えたところ,「今後も更新されると考えていた。希望退職を募ったり,配置換えの措置をとらないままにリストラすることは許されないのではないか」と主張をしています。会社としてどのように対応をすればよいのでしょうか。

    有期の期間中にリストラする場合,「やむを得ない事由」が必要となります。法のここでの「やむを得ない事由」については厳格に判断されることになり,契約期間の終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむを得ない事態が発生することが必要とされるとする裁判例もあります。
    他方,いわゆる「雇止め」の場合には,法19条により,労働契約が過去に反復して更新されたことがあり,かつ期間の定めのない労働契約と同視できる場合,又は更新への合理的な理由がある場合には,労働契約が更新等されたものとみなされます。同法の適用がある場合には,解雇権濫用法理が類推され,有期労働契約社員の場合には,正社員の整理解雇の場合に比べて保護の程度が低いとしつつも,希望退職募集の有無や他部門への配置換えの可能性など,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性があるか等を考慮する必要があり,合理性がなければ無効となります。
    よって,これを踏まえた対応が必要となるでしょう。

  • ●会社内で部下と不倫をしている社員がいます。ただ,それは職場外,勤務時間外の言動ではあります。会社として,どのように対応をするべきでしょうか。

    原則,職場外,勤務時間外の私生活上の行為は会社の懲戒処分の対象とはなりません。としても,当該不倫行為が企業秩序に直接関連し,企業の評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合にあっては懲戒の対象とすることができるものとされています。
    よって,①会社の業態・規模,②交際の態様,③当該社員の地位・職務内容等,に照らして具体的に判断されることになります。また,懲戒処分を行う場合にも当該懲戒処分の相当性の観点から,過度に重くなりすぎないことの視点を要し,解雇を判断するに至るまで,注意,減給,出勤停止,配転などを慎重に検討することを要すると言えるでしょう。

  • ●当社は,業績悪化により希望退職を募ることにしましたが,これに応じた社員が転職するにあたり,当社の技術情報とノウハウを転職先に伝えることを心配しています。これに対して,どのような対策が必要でしょうか。

    社員との間で,就業規則や個別の約定をもって退職後も情報を秘密に保持しておくなど秘密保持契約による対応と不正競争防止法による対応を可能にするための情報の管理体制の構築が考えられます。
    秘密保持契約については,退職後を見据えた秘密保持特約が重要となります。有効に特約が締結された場合の効果として損害賠償請求,差止請求も可能となりえます。前述の通り,退職時にこれを差し入れさせることは困難なことも少なくないことから,入社時に退職後を見据えた誓約書を差し入れさせることが有益です。としても,それが秘密情報の特定が難しいものであれば不十分ということになりかねません。
    秘密保持特約の場合,下記の不正競争防止法と比べると,それが公序良俗違反等で無効とならない限り,柔軟に秘密保持の対象となる情報を設定することができ,同法では保護されないような情報や製造ノウハウもその対象となりえます。
    他方,不正競争防止法に基づく場合には,同法の対象は「営業秘密」であることを要し,①秘密として管理されていること(秘密管理性…マル秘等の表示で当該情報が秘密情報である旨を明示し,施錠した金庫などに保管し,アクセスできる者を限定する運用を要するものとされています。),②有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性),③公然と知られていないこと(非公知性)の要件を満たして「営業秘密」になりえます。社内で広くアクセスすること可能な情報はここで言う営業秘密に該当しません。同法の要件を満たせば,秘密情報開示の差止請求,廃棄・除却請求,損害賠償請求,信用回復請求の各請求が可能です。