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「1」 子の引渡しの問題はどのような場合に問題となるのですか?
離婚後だけでなく,離婚前であっても別居中の親が子どもと一緒に暮らしている親に対して子どもの引渡しを求めることもあります。場合によっては,離婚後に親権者に対しても子の引渡しの問題が生じることもあります。
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「2」 離婚をして,親権を取らなければ子の引渡し請求ができませんか?
離婚前も引渡し請求を行うことは可能です。
夫婦双方ともにまだ親権者であり,共同で行使するものとされていますが,別居中の夫婦の一方が一方的に子どもを連れて帰ってしまったような場合には,連れて行った相手に対して子の引渡しを請求することができます。
この場合,引渡しを請求するには(子の監護権者指定の審判申立てと同時にする)子の引渡しの審判申立てや人身保護法による人身保護請求などの方法が考えられます。
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「3」 親権者ですが,監護権者は離婚した元配偶者です。子の引渡し請求はできますか?
監護権がない親権者であっても子の引渡し請求はできます。
ただし,親権者といえども監護権を有しない以上,子の監護については非親権者と同じ立場になるので,監護権者変更の審判の申立てと同時に子の引渡し請求の申立てをします。
なお,監護権者変更の申立てのみがあった場合でも,家庭裁判所は職権で子の引渡し命令を発することができますが,必ず職権行使がなされるとは限らないので,当事者は別個独立に申立てをすべきです。
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「4」 子の引渡しを求める手続にはどのようなものがありますか?
法律上は,①家事審判手続,②人身保護手続,③一般民事手続の3つがあります。
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「5」 家事審判手続とは何ですか?
家庭裁判所で子の引渡しを求める申立てを行う方法(調停,審判)です。
さらに,子の引渡しを求める審判前の保全処分を併せて行い,迅速な審理を求めることができます。
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「6」 審判前の保全処分とは何ですか?
調停や審判の結論が出るまで待っていては,子に取り返しのつかない危害が加えられる可能性があるなど,緊急性が高い場合の手続として,審判の結論が出るまでの間に,子の引渡しを仮に命じてもらう制度です。
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「7」 人身保護手続とは何ですか?
不当に身体の自由を拘束されているときに,地方裁判所に対して人身保護請求の裁判を提起して身体拘束からの自由を請求できる制度です。
請求をしてから1週間以内に裁判を開き,審理の終結日から5日以内に判決言渡しをしなければならないと法律で規定されており,迅速に判断がなされるため夫婦間の子供の奪い合いのケースでも,昭和55年に当時の家事審判法(現家事事件手続法)が改正されるまではよく用いられていました。拘束者の出頭を義務付けたり,人身保護命令に従わない拘束者に対して勾留や過料に処し,被拘束者を移動させたり,隠したりして,その救済を妨害した場合には,2年以下の懲役又は5万円以下の罰金といった刑罰による強力な強制力があります。
しかし,家事審判法の改正により,家事審判による子の引渡しの保全処分の審理が迅速化したこと,そもそも,人身保護請求手続きは,不当に奪われている人身の自由を司法裁判により迅速かつ容易に回復することを目的にした制度であり,子の引渡しを第一の目的にした制度ではないため「子の福祉」という観点からの調査が乏しいこと,子を引渡す執行の方法も拘束者に対する刑罰しかなく直接子どもを連れていくことは出来ず,その運用例もほとんどないため,現在は最後の手段として位置付けられています。
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「8」 人身保護手続が認められる場合は何ですか?
人身保護手続きによる子の引渡しが認められる要件は,①子が拘束されていること,②その拘束が違法であること,③救済目的達成のために,他に適切な方法がないこと,です。
具体例としては以下のとおりです。
・子の引渡し請求を命ずる保全処分に従わない場合
・拘束者の子に対する処遇が親権行為という観点からみても容認できない場合
・子の連れ去りなど,拘束の違法性が高い場合
などです。
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「9」 一般民事手続とは何ですか?
親権または監護権を根拠として,地方裁判所に子の引渡しを求める訴えを提起する方法です。
家事審判手続,人身保護手続と比べて時間がかかり,手続きは通常の民事裁判と同様のため子の意見や子の福祉などの観点を十分に盛り込んだ審理ができないという問題点があります。
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「10」 一般民事手続を行うのはどのようなときですか?
監護者となる余地のないような第三者が,子の監護紛争とは無関係に子どもを拉致誘拐したような場合です。
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「11」 家事審判による子の引渡しが認められる判断基準は?
どちらの親に監護させることがより子の福祉に適するか,という観点から判断がなされます。家庭裁判所が考慮している具体的な基準として以下のものがあげられます。
①父母側の事情
・監護能力(年齢,健康状態,異常な性格でないことなど)
・精神的,経済的家庭環境(資産,収入,職業,住居,生活態度)
・居住環境
・教育環境
・子供に対する愛情の度合い
・従来の監護状況
・親族の援助
などです。
②子の側の事情
・年齢
・性別
・心身の発育状況
・兄弟姉妹との関係
・従来の環境への適応状況
・環境の変化への適応性
・子自身の意向(15歳以上であれば子どもの意見を聞く必要があります)
などです。
③監護の継続性
監護者や居住環境が何度も変わることは子どもの精神的な負担になるため,(別居中などの場合)一方当事者の下で一定期間以上平穏に暮らしているとき,現状が尊重されることになります。
④母性優先の原則
乳幼児の場合,母親の存在が情緒的成熟のため不可欠であることが精神医学や発達心理学の立場から指摘されています。ただし,この場合の母親とは生物的な母親を指すのではなく,母性的な役割が優先するという意味で,たとえ男親であっても,母親代理の機能を発揮している場合や,祖母などの母親代理としての監護補助者がいる場合には,これも母性の存在として考慮要素となります。
⑤兄弟姉妹の不分離
子どもにとって,兄弟姉妹と生活を共にすることによって得る経験は人格形成上重要な価値があるとされ,兄弟姉妹は原則として同一の親の下で監護されるべきと考えられています。 -
「12」 家事事件手続法による子の引渡しの審判が出たにもかかわらず相手が引渡しを拒んだ場合はどうするのですか?
審判後の手続には,
①履行勧告(裁判所から相手に書面を送ったり、裁判所に呼び出して履行をするように勧告する),
②間接強制(一定期間内に引渡しをしない場合金銭の支払いを命じる),
③直接強制(執行官が強制的に子を連れ出す),
があります。
③の直接強制は、子どもに意思能力があり、子ども自身が拒絶をしている場合には、子どもの福祉の観点から子どもの意向を尊重し直接の引渡しができないということもあります。
また,相手方や他の同居人が子どもを抱えて引き渡さない場合や執行場所以外の場所に子を連れて逃げた場合など,執行不能となってしまう場合もあります。