• 「1」 離婚に伴う財産分与とはどういうものですか?

    財産分与とは,夫婦が結婚期間中に協力して形成した財産を離婚に際して分与することをいいます。財産分与は,民法上,財産分与請求権として認められています(民法768条1項)。

  • 「2」 離婚に伴う財産分与の対象になるのはどのような財産ですか?

    婚姻期間中にその協力によって得た財産が財産分与の対象財産となります。夫又は妻が,結婚前から取得していた財産や結婚期間中に取得した財産であっても第三者から相続や贈与など第三者から無償取得した財産は各配偶者の個人財産(特有財産)であり財産分与の対象財産にはなりません。
    結婚期間中に夫婦が協力して得た財産であれば,その名義が夫・妻いずれのものであっても財産分与の対象となります。

  • 「3」 妻から財産分与の請求をされています。財産を分けなければいけないことは理解していますが,必ず半分を分けなくてはならないのでしょうか?

    実務上,財産分与の割合は,特段の事情が無い限り2分の1ずつ分与するのが原則と考えられています。
    しかし,夫婦の一方の特別の努力や能力によって高額の資産が形成された場合や,不動産等の高額な財産の取得の際に夫婦の一方が原資の一部として多額の特有財産を出したような場合には,特段の事情があるとして,その分与割合が2分の1以外になることがあります。

  • 「4」 財産分与をする場合,いつの時点を基準にするのですか?

    原則として,夫婦の経済的共同関係が消滅した時点,つまり,①離婚前に別居が先行していれば別居時に存在した財産,②別居をしていなければ離婚時に存在した財産,と実務上では考えられています。

  • 「5」 夫とは結婚して約30年になります。結婚当初から夫の浮気癖が治らず,子どもも就職したので,夫との離婚を考えています。しかし,私は結婚で会社退職して以降専業主婦をしており,年齢的にも能力的にも再就職することは難しいと思います。 そこで,夫に対する財産分与請求に当たって,今後の生活費やこれまでの浮気の慰謝料を加味することができないでしょうか?

    財産分与には,①清算的財産分与,②扶養的財産分与,③慰謝料的財産分与があるとされています。一般的な財産分与は①の清算的財産分与であり,夫婦の共有財産を2分の1にするというものです。
    相談のように離婚後の生活費の要素を財産分与に盛り込んだ財産分与を②の扶養的財産分与と言います。実務上では,そもそも,①の清算的財産分与についても離婚後の一方当事者の生計の維持を図ることも目的に含まれているため,扶養的財産分与は,補充的なものと考えられています。清算的財産分与や慰謝料で生計を維持することができるだけの財産を取得できる場合には扶養的財産分与の必要性はないと考えられています。裁判所で主張をしても認められるケースはかなり少なく,極めて限られた場合です。
    また,有責な行為によって離婚の原因を作出した配偶者に対して,損害賠償請求権の要素を加えた財産分与を③の慰謝料的財産分与と言います。しかし,実務上は,財産分与の請求とは別個に不法行為に基づく損害賠償請求をすることが多く,裁判所が財産分与の判断に当たって慰謝料的要素を考慮する事はほとんどありません。

  • 「6」 夫の退職金は財産分与の対象になるのでしょうか?

    原則,実務上では財産分与の対象になると考えられています。しかし,退職金が既に支払われているか否かでその取り扱いが異なってきます。
    ①既に退職金が支払われている場合退職金がすでに支給されている場合,財産分与の対象になることは実務上も争いはありません。
    ②未だ退職金が支払われていない(将来の退職金)の場合退職金が未だ支給されていない場合であっても,離婚時にその支給額が確定している場合には,財産分与の対象になることに争いがありません。支給額も確定していない将来の退職金については,実務上,支給される蓋然性が高いことを条件に財産分与の対象財産になるとしています。支給される蓋然性が高いか否かは,退職金支給までの期間,勤務先の規模・種類(公務員か民間か等),勤務年数等によって総合的に判断されます。
    なお,将来の退職金の金額は,離婚時に退職したと仮定をして計算することが実務上は多いです。

  • 「7」 妻と離婚することになり,妻から財産分与を請求されました。分与できるような財産は,住宅ローンが20年残っているマンションしかありません。このマンションも財産分与の対象になるのですか?

    財産分与は原則としてプラスの財産を分けるものと考えられており,離婚の際に債務を分担することは考えられていません。マンションなどの不動産に住宅ローンが残っている場合に,それだけを理由に財産分与の対象にならないというわけではありません。不動産の時価とローン残高を比較してどちらが多いかで,その取扱いが変わります。
    ①不動産の時価>ローン残高
    この場合,不動産を売却した代金からローンを完済し,その残額を財産分与の対象にする,あるいは,当該不動産の時価(査定額)からローン残高を控除した金額をもとに分与額を算定し,その額を現金で支払うといった方法を取ることがあります。
    ②不動産の時価<ローン残高
    いわゆる,債務超過の場合ですが,この場合は様々な方法が考えられます。
    【例1】
    マンションの所有名義人でありローンの名義人である夫が住宅ローンを支払い続け,妻及びその子が賃料等の負担なく,そのマンションに居住することを認める,という方法が考えられます。この場合,妻は,マンションの所有権を取得する事はできませんが,当該マンションに無償で居住する利益を得ることが出来ます。ただし,夫がローンの支払いを滞らせた場合には,マンションが競売に掛けられ,住めなくなる可能性があります。
    【例2】
    妻がマンションの所有権を取得する代わりに,妻が住宅ローンの新たな名義人となり,その後の支払義務を負担するという方法が考えられます。その際に,従来のローン名義人であった夫は,金融機関に債務を免責してもらうことになります。この場合,妻が住宅ローンの名義人になれるかどうかは住宅ローンの債権者である金融機関次第であり,場合によっては新たな保証人を立てるように要求されることもあるでしょう。
    【例3】
    夫がマンションのローンを支払いつつ,妻がマンションに居住し,その所有権の移転を受けるという方法が考えられます。この場合,妻は,夫がローンの支払を完了すれば,抵当権のついていないマンションを取得できることになります。しかし,この場合には,住宅ローンの債権者である金融機関に,夫から妻へマンションを譲渡することの承諾を得る必要があります。

  • 「8」 財産分与請求をする方法・手続を教えて下さい。

    離婚に伴う財産分与の請求は,離婚と同時に請求することが多いですが,離婚後の請求も可能です。
    ①離婚と同時に請求する場合
    まずは,離婚自体に関する相手方との話合いにおいて財産分与の対象・割合・分与の方法等について話し合いをすることが考えられます。話し合いがまとまらなかった場合,家庭裁判所に離婚調停を申立て,その附随的な申立として財産分与の請求をすることになります。離婚のみを早期に成立させたいとして離婚についてのみ調停を成立させる場合があります。この場合には,改めて財産分与についてのみの調停を申し立てることになります(以下の②の場合となります。)。離婚・財産分与についての調停が不成立となった場合,家庭裁判所に対して離婚訴訟を提起し,その附帯処分として併せて財産分与の請求をすることになります。
    ②離婚成立後に請求する場合
    まず,この場合に注意すべきことは,離婚(協議・調停・裁判・和解いずれも)から2年が経過すると,財産分与自体を請求することが出来なくなります(民法768条2項)。この2年間は除斥期間と呼ばれており,時効のように特定の事由が起こると時効の進行が止まり,また新たに「ゼロ」から時効期間の進行が始まる(時効の中断)ということがありません。財産分与請求の方法としては,離婚した元配偶者との協議,財産分与調停・審判が考えられます。調停での話合いがまとまらなかった場合,自動的に審判に移行し,裁判所が財産分与について判断を下します。調停を経ずに審判を申し立てることもできますが,実務上は,まずは調停を申し立て,話し合いによる解決を図ることが多いです。

  • 「9」 私は,パートナーである男性と約20年ほど内縁(事実婚)関係を続けていましたが,この度,その関係を解消することになりました。私は,この男性に対して財産分与を請求することができるでしょうか?

    内縁関係においても財産分与が認められる可能性があります。内縁関係について最高裁判所は,「いわゆる内縁は,婚姻の届出を欠くがゆえに,法律上の婚姻ということはできないが,男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては,婚姻関係と異るものではなく,これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。」として内縁関係についても一定の法的保護を与えています(最高裁判所昭和33年4月11日)。
    そして,裁判例は,内縁関係解消時の財産分与について,「財産分与の本質は第一義的には離婚の際における夫婦共同生活中の財産関係の清算であり・・・,そうだとすれば,財産分与は,婚姻の解消を契機としてなされるものではあつても,現に存した夫婦共同生活関係を最終的に規整するものともいうべく,かつこれによつて直接第三者の権利に影響を及ぼすものではないから,内縁についても,これを認めるのが相当である」として内縁関係解消時の財産分与を認めています(広島高等裁判所昭和38年6月19日決定。その他,東京家庭裁判所昭和31年7月25日審判等)。そのため,内縁関係継続中に両パートナーの協力のもとに形成された財産がある場合には,財産分与の請求が出来ます。