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●建物の退去・明渡の際の問題点について,教えてください。
建物の退去・明渡を求める場合,交渉をする場合と,判決強制執行でする場合があります。
いずれの場合にも,様々なバリエーションがありますが,ただ多くの場合は,未払い賃料の確保などより,建物からの退去,明渡を優先すべき場合が多いでしょう。
なお,退去は,文字通り出ていくことである反面,明渡は,物を撤去した上で退去することを意味するものです。なお,自力救済の禁止(裁判所の手続きによらずに実力行使してはならない)という原則があり,すでに賃借人がすでに退去をしていたとしても,大家が勝手に家具を処分したり,鍵を交換して入れなくしたりすることは法的に許されるものではありません。 -
●明渡しの際,原状回復義務として,どのようなものがありますか?
ここで言う原状回復義務については,民法には明文の規定はありませんが、その対象として,建物について生じた経年変化や通常損耗(通常の使用により生じた損耗)は含まれず,特別損耗に該当するものがその対象となります。例えば,賃借人が柱につけた傷と、壁に煙草のヤニが酷く付着をしているようなものがそれに該当するものです。
この場合,賃貸人は、賃借人に対し、善管注意義務違反、原状回復義務違反を理由に、これらの修繕の費用を損害賠償として請求することができます。
しかし,賃貸人は原状回復義務を果たしていない賃借人に対して,これを果たすまでの賃料相当額の支払までを請求することはできません。それは,賃借人が,建物を汚損・破損していても、そのままで,明渡し義務自体は履行したことになると考えられているからです。 -
●建物明渡請求訴訟で勝訴判決を得ましたが,賃借人が建物から出ていきません。どうすれば良いのか,教えてください。
勝訴判決を行った裁判所に対して,執行文付与の申立てを行い,勝訴判決の正本に執行文の付与を受けて,勝訴判決の送達証明書等を得た上で,その建物の所在地を管轄する裁判所の執行官に対し,建物明渡しの強制執行申立てを行います。
執行官の職務執行に要する費用を裁判所に予納し,賃借人の家財等の動産を搬出するために要する費用を賃貸人が支出することを必要とします。 -
●建物明渡の強制執行についてその詳細について教えてください。
執行官は,明渡しの催告を行う際に,強制執行の実施予定日を定め,その実施予定日までに賃借人が自発的に退居しない場合には,強制執行の断行をすることになります。
一般的に,賃貸人側で荷物の搬出を行う業者を手配することを要し,搬出作業を行う作業員の人数について執行官と事前に打合せを行います。
なお,建物の明渡しの強制執行は,強制執行の申立てを行った債権者又はその代理人が執行の場所に出頭したときに限り,できるとされています。また,判決言渡し後に賃借人が自発的に退居したにもかかわらず,賃貸人からは賃借人が退居したか否か不明の場合には,明渡しの催告の際に,債権者又はその代理人が執行の場所に出頭していれば,その場で建物の占有を取得することができるとされています。
ところで,建物明渡しの強制執行断行の際,執行官は,建物から搬出した賃借人の家財等の動産を,債務者その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業員で相当のわきまえのあるものに引き渡さなければならず,これを引き渡すことができないときは,即日又は断行日から1週間未満の日に売却を行うことができます。なお,執行官は売却までの間,この動産を保管しなければならず,この場合,債権者が倉庫業者を手配する等して保管場所を確保することになります。
以上,建物明渡しの強制執行,特に断行の場合には,執行官手数料,解錠技術者費用,立会証人・引越業者・倉庫業者に支払う費用などの高額の費用を負担するリスクがあると言えるでしょう。