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「1」 逸失利益とは何ですか?
交通事故によって被害者に後遺症が生じた場合,後遺症によって被害者の労働能力が低下するため,被害者が将来得ることができたはずの経済的利益(給与・報酬など)が減少します。
また,交通事故によって被害者が死亡した場合,被害者が将来得ることができたはずの経済的利益(給与・報酬など)を得ることができなくなります。
このように,後遺症により減少した経済的利益のことを後遺症による逸失利益といい,死亡により得ることができなくなった経済的利益のことを死亡による逸失利益といいます。
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「2」 後遺症による逸失利益は,どのように計算するのですか?
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
【具体例】
症状固定時45歳で年収600万円の男性が45%労働能力を喪失した場合
600万円×0.45×13.1630(労働能力喪失期間22年(67歳―45歳)のライプニッツ係数)
=3554万0100円
ただし,18歳に達するまでは経済的利益が発生していないと考えられることから,症状固定時18歳未満の未就労者については,以下の計算式で計算します。
基礎収入×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-症状固定時の年齢から18歳に達するまでのライプニッツ係数)
【具体例】
症状固定時12歳の男性が45%労働能力を喪失した場合(基礎収入は,平成28年男性労働者学歴計全年齢平均賃金549万4300円としました)
549万4300円×0.45×(18.6335-5.0757)
=3352万0779円(端数切捨)
67年-12年=55年に対応するライプニッツ係数18.6335
18年-12年=6年に対応するライプニッツ係数5.0757
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「3」 ライプニッツ係数とは何ですか?
逸失利益は,長期間にわたって発生する逸失利益を一時金として算出するものであるが,それでは,本来得られない金額を一時に利用することができることになるため,その不公平(中間利息)を控除するのがライプニッツ係数です。
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は以下のとおりです。
ライプニッツ係数
(国土交通省・「就労可能年数とライプニッツ係数表」(http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf)より引用)
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「4」 基礎収入はどのように算出しますか?
休業損害の場合と基本的には同じように算出され,交通事故発生の前年度の年収額を基礎として算出します。
ただし,休業損害が症状固定までの比較的短期間についての収入減少が問題とされるのに対して,後遺症による逸失利益が就労可能年数期間という長期間についての収入減少が問題となることから,後遺症による逸失利益の場合は,基礎収入の算定について,賃金センサスを用いることが多いです。
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「5」 事故当時収入が無い人も後遺症による逸失利益を請求することができますか?
専業主婦など家事従事者については,休業損害と同様に,家事労働を金銭的に評価されうるものであるから,後遺症による逸失利益を請求することができます。
幼児・児童・学生について,事故当時は収入がないので休業損害は認められませんが,将来的には稼働して収入を得るものと考えられるので,後遺症による逸失利益を請求することができます。
失業者についても,就業の可能性が無い場合を除き,将来永久的に失業したままではないと考えられるので,後遺症による逸失利益を請求することができます。
なお,以上のとおり,事故当時収入が無い人は,将来就労の可能性が無い場合を除き,後遺症による逸失利益を請求することができますが,その場合の基礎収入は,賃金センサスを用いて算出するのが一般的です。
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「6」 労働能力喪失率とは何ですか?
後遺症が残存したことによって労働能力が低下したことの比率です。
以下の表が,後遺障害の等級別による労働能力喪失率は,以下の表のとおりです。
労働能力喪失率表
(国土交通省・「労働能力喪失率表」(http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/sousitsu.pdf)より引用)
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「7」 労働能力喪失期間とは何ですか?
症状固定日を労働能力喪失期間の始期とし,就労可能年数とされる67歳を労働能力喪失期間の終期とします。ただし,症状固定時の年齢が55歳以上の者の労働能力喪失期間は,平均余命年数の2分の1とし,端数は切上げることもあります。
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「8」 死亡による逸失利益は,どのように計算するのですか?
基礎収入×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数後遺症による逸失利益の場合と異なり,死亡の場合は労働能力喪失率100%なので,労働能力喪失率をここでは考慮しません。
他方,死亡の場合は,被害者は生活費の支出を免れたので,生活費相当額を控除します。死亡した人の属性による生活費控除率は以下のとおりです。
一家の支柱(被扶養者1人の場合) 40%
(被扶養者2人以上の場合) 30%
女性(主婦・独身・幼児等を含む) 30%
男性(独身・幼児等を含む) 50%