• ●敷金とは何ですか?

    敷金とは,不動産の賃貸借契約において,賃借人が賃貸人に対する賃料債務やその他の賃貸借契約に基づく債務を担保するために賃貸人に対して支払う金銭のことを言います。利息を付けずに,契約の終了時,賃貸人から賃借人に返還されるべきものとされています。

  • ●敷金が返還される際,差し引かれるものはありますか?

    敷金から差し引かれる金額は,賃料滞納分や原状回復に必要な費用などの借主が故意や重過失によって発生させた損傷や汚損,または契約書に明記された規定に違反した場合などです。しかし,通常の使用によって生ずる程度の損耗についての原状回復費用は敷金から差し引くことはできません。

  • ●通常の損耗は敷金から差し引かれないとのことですが,例外はあるのですか?

    賃貸契約書においても通常損耗に関する修理費用を賃借人が負担する場合には,その対象が具体的に明記されている必要があります。最高裁判所の判決によると,契約書に記載された明確な合意が必要であり,修理費用(金額)を明記した上で,それが通常損耗による場合でも賃借人が負担することが明記されている必要がある場合があります。ここで言う明記というものについては厳格なものが要求されており,また,賃借人が事業者,非事業者によってその程度が異なると言っていいでしょう。

  • ●敷金の返還を請求できる時期はいつからですか?

    敷金の返還を請求できる時期は,賃貸借契約の終了後,賃借人が不動産を明け渡した後からとなります。一般的には,賃貸借契約終了から1か月程度で敷金の返還が行われることが多いですが,契約書に別段の規定がある場合や,物件の状態に問題がある場合は,時間がかかることがあります。

  • ●原状回復にかかわるガイドラインについて教えてください。

    国土交通省が策定した「原状回復を巡るトラブルとガイドライン」は,建物の賃借人が居住や使用により発生した損耗や毀損を修復するための指針です。
    ただし,このガイドラインにも,以下のような課題があります。
    ①ガイドラインでは,費用区分のすべてを明確に定められているわけではない。
    ②特別汚損かどうかは事実認定の問題になることも少なくなく,事案によってケースバイケースとなるため,ガイドラインだけでは解決できない。
    したがって,原状回復に関するトラブルが発生した場合には,ガイドラインを参考にしながらも,事案ごとに状況を考慮した上で,解決策を模索する必要があるでしょう。

  • ●賃料滞納により建物の退去・明渡を求める場合の流れについて教えてください。

    ① 内容証明郵便などの書面で未払い賃料の一括払いを求め,期限を区切ってその期限までに支払えない場合には,賃貸借契約を解除する旨の意思表示,及び期限までに滞納賃料が支払われない場合には,明渡を求めます。

    ② ①を前提にして,退去・明渡を交渉をするも,決裂した場合には,訴訟を起こします。

    ③ ②の裁判の中も和解での解決を探るも,それでも解決を図れない場合には,判決を得て強制執行をもって実現をすることになります。裁判の中でも和解での解決を図るのは,強制執行手続きを取る場合にも費用がかかることになるので,和解でのそれを図ることになります。

  • ●普通建物賃貸借契約とはどのような賃貸借ですか。

    期間を定め,又は期間を定めないで,建物の使用収益及びその賃料を定めてする, 法定更新のある建物賃貸借契約です。
    建物の賃貸人が解約するには正当事由の存在が必要であり,賃借人が強力に保護された賃貸借です。1年未満の期間を定めた賃貸借契約は期間の定めのないものとみなされ,他方,1年以上であれば長期の制限はありません。

  • ●普通建物賃貸借契約の法定更新はどのような場合に生じますか。

    期間の定めがある賃貸借では,当事者が期間満了前1年前から6か月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知,又は条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます。また,当該通知後の場合でも,期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において,建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも,同様に契約を更新したものとみなされます。
    次に,期間の定めのない賃貸借は,建物の賃貸人が解約の申入れをした日から6か月を経過することによって契約は終了しますが,この契約終了後においても,建物賃借人が建物の使用を継続し,これに賃貸人が遅滞なく異議を述べないときは,同様に契約は更新されたものとみなされます。

  • ●普通建物賃貸借契約の法定更新後の契約期間についてはどのようになりますか。

    期間は定めがないものとなります。よって,建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合において,解約の申入れの日から6か月を経過することにより,契約は終了しますが,解約の申入れの際には,正当事由の存在が必要です。

  • ●普通建物賃貸借契約の解約における正当事由について教えてください。

    ①家主及び借家人 (転借人を含む) の双方の建物の使用を必要とする事情のほか, ②建物の賃貸借に関する従前の経過,③建物の利用状況, ④建物の現況, ⑤立退料の申出等を総合的に比較勘案して判断されることになります。

  • ●建物賃貸借契約の解約の際の正当事由の各判断要素について教えてください。

    ①家主及び借家人(転借人を含む。)の双方の建物の使用を必要とする事情
     正当事由の主たる判断要素なものです。
     家主側の事情は,自己又は家族の居住の必要性,家族との同居の必要性,借家の老巧化による建替えの必要性,敷地の有効利用など,借家人側の事情は,借家の使用継続の必要性,(借家人(転借人)が老齢・病気・困窮等のため引越しが困難,借家人(転借人)生計を立てる手段として店舗に使用しているなど)が判断要素となります。

    ②建物賃貸借に関する従前の経過
     契約締結の際の事情(恩恵的な貸借であったか(契約期間の長短,権利金・保証金・その他一時金の授受の有無及びその額など),契約の経過期間,借家契約継続中における更新料等の授受の有無・その額,賃料不払や用法違反等の債務不履行があるかなどが判断要素となります。

    ③建物の利用状況
     建物が居住用か事業用か,その構造が堅固か,非堅固(木造)か,何階建か,床面積はどの程度か,建築基準法等に適合しているか,などの判断要素となります。

    ④建物の現況
     建物の老巧化の程度(建物の経過年数や残存耐用年数),大修繕の必要性,修繕に必要な費用額などが判断要素となります。

    ⑤財産上の給付
     ①から④の正当事由を補完する要素であり,立退料の提供のほか,代替建物の提供が考えられます。

  • ●通常の建物の賃貸借契約をすれば,容易に,退去,明け渡しをさせることができないとのことですが,一定の期間を経過すれば原則,退去,明け渡しをしてもらう契約の方法はありますか?

    まず,一時使用目的の建物賃貸借契約を締結することが考えられます。

    判例によると,「賃貸借の目的,動機,その他諸般の事情から,該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが,客観的に判断される場合」で,かつ,「賃借人もこれを了承しているような場合」に一時使用目的の賃貸借となるとされます。具体的には,建物を賃貸借する動機,建物の使用目的,用途,利用期間,建物の種類,敷金の有無等の賃貸借条件などの事情が考慮され,一時使用目的に該当するか判断されることになります。具体的には,自宅建物の増改築のための仮住まいなどがこれに該当するでしょう。なお,契約書に一時使用目的と記載されていても上記の要素を満たさなければ一時使用目的とはされません。

    一時使用目的の建物賃貸借契約では,1年未満の賃貸借契約を無効としている借地借家法は適用されず(借地借家法第29条,第40条),民法がそのまま適用され,期間が満了後も,一時使用目的の建物賃貸借契約の賃借人が賃借物の使用又は収益を継続している場合,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとされ(民法第919条),契約の期間満了後は,期間の定めのない賃貸借となり,賃貸人及び賃借人ともに,どちらかからの解約申し入れから3か月後に賃貸借期間は終了する(同法第617条)。賃貸人からの解約申し入れについては,正当事由は不要とされます。

    次に,定期借家権として,賃貸借契約を締結することです。

    2000年3月1日施行以前の借家契約では,期間を定めていても,更新を拒絶するには正当な事由がない限り,賃貸人の方からの借家契約の更新の拒絶はできず,また,特約で更新しない旨を定めても,賃借人に不利な条項として無効になってしまいます。これに対して,定期借家契約では,契約で定めた期間満了によって,契約を終了させることができることになります。

    但し,定期借家契約には以下の要件を満たすことが必要とされています(借地借家法38条)。

    ① 書面により契約をすること
    ② 契約期間を定めること
    ③ 契約書の中に,契約の更新がなされないということを定めておくこと
    ④ 契約の前に,契約の更新がないことにつき書面をもって説明しておくこと

    特に,③については,「契約の更新がなく,期間が満了すれば契約は終了する」というような定めをすることが一般的でしょう。
    ④については,契約の締結前に,契約の更新がなく,期間の満了により契約が終了する旨を書いた書面を借主に渡し,説明することを必要とし,この書面は契約書とは別に作成しなりません。なお,この説明の時期は,契約締結の前であればよく,契約締結と同じ日でも差し支えありません。
    成立の際には上記の通りなのですが,定期借家契約を終了させるためには,期間満了の1年前から6か月前までの間に,期間満了により契約が終了する旨の通知をしておく必要があり(但し,その契約の期間が1年未満の場合は不要)。この通知を行っておけば,期間満了時に契約は終了し,借主に出て行ってもらうことができます。
    もっとも,契約の終了後に,新たに定期借家契約を結び直すということは可能です。

  • ●賃貸建物について,立ち退きを求められています。立退料の相場はいくらなのでしょうか?

    そもそも,立退料そのものだけで,立退きの肯否が決せられるものでなく,立退きの際に判断される正当事由の存否の判断について,補完するものという位置づけです(借地借家法第28条)。

    定型的な算定方法はなく,諸々の要素と関連して定まるとされ,その理由の一として,現実の紛争においては,当事者間の話合い, 民事調停,訴訟になった場合でも和解で解決することが多く,閲覧可能な記録としては残らないことがあるのではないでしょうか。

    居住用,事業用共通して,移転実費および借家権価格相当額, 事業用の場合はさらに営業補償を加味して算定するものとされ,不動産鑑定評価基準にも算定方法が存在しますが,裁判例では必ずしもこれに従って立退料の金額が決められていません。賃貸人および賃借人が建物の使用を必要性や,賃貸借に関する従前の経過 老朽化に伴う建替えの必要性等を総合的に考慮して判断されます。

    としても,一般的に,居住用の場合よりも事業用のほうが高額になる傾向があり,居住用の場合,賃借人の被る不利益, 移転費用 賃貸人の使用の必要性等の事情を考慮し,事業用の場合には,物件の立地条件,賃借人の被る不利益,固定客の状況やこれまでの営業の月日数などの事情が考慮されるでしょう。

    あくまで,私見でありますが,概ね,家賃の6ヶ月~1年分 ,居住用の場合には,40万~80万円,事業用の場合には,300万~1億円などの相場観ではないでしょうか。

  • ●建物賃貸借契約の解約の際の正当事由の存否の判断基準時について教えてください。

    判例は,解約申入れの時から6か月間持続することを要し,かつそれで足り,その後の事情は正当事由判断の資料とはならないとし,借家人が賃貸借契約の解約申入れに基づく建物明渡請求訴訟を継続維持しているときは,解約申入れの意思表示が黙示的・継続的にされているものと解すべきであるとしています。当該解約申入れ当時に正当事由が存在しなくても,訴訟係属中に正当事由が具備するに至った時から6か月の期間の経過により,当該賃貸借契約は終了するとしています。
    他方,賃貸人が解約申入後に立退料等の金員の提供を申し出た場合又は解約申入時に申し出ていた右金員の増額を申し出た場合においても,右の提供又は増額に係る金員を参酌して当初の解約申入れの正当事由を判断で,右正当の事由を補完する立退料等金員の提供ないしその増額の申出は,事実審の口頭弁論終結時までにされたものについては,これを考慮することができるとしています。
    借家における正当事由は,原則,解約申入れの時から6か月間持続することを要し,かつそれで足るとしつつ,立退料等の提供の申出のみが事実審の口頭弁論終結時までできるものとしていると捉えられるでしょう。

  • ●家賃債務保証会社について教えてください。

    賃借人から委託を受け保証料の支払を受けて,連帯保証人になることを主たる業務の内容としている業者のことを言います。
    一般に,賃借人は家賃債務保証会社に保証料として賃料の半月分を支払い,2年目ごとに当該保証料を支払うとされることが多く,家賃を滞納した場合,賃借人に代わって賃貸人に家賃を支払い,家賃保証会社が賃借人に求償することになります。

  • ●建物を賃借しています。賃料1回の未払いで契約解除されてしまうのでしょうか。

    賃料未払いを含め,債務不履行による賃貸借契約の解除については,単に債務不履行があったのみならず,それにより賃貸借契約を継続し難い事情があるときに解除権の行使が認められます。
    なお,建物賃貸借契約において賃料1か月の遅滞で無催告解除ができる旨を定めた特約条項については,契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には,無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると考えるべきであり,原則として単に1か月の不払で無催告解除ができるという特約は無効です。

  • ●家賃債務保証会社について教えてください。

    賃借人から委託を受け保証料の支払を受けて,連帯保証人になることを主たる業務の内容としている業者のことを言います。
    一般に,賃借人は家賃債務保証会社に保証料として賃料の半月分を支払い,2年目ごとに当該保証料を支払うとされることが多く,家賃を滞納した場合,賃借人に代わって賃貸人に家賃を支払い,家賃保証会社が賃借人に求償することになります。

  • ●つい最近,賃借人が自殺をしていた場合,賃貸人は,新たな賃借人に対して自殺の事実を告知すべき義務がありますか。

    はい。
    入居者の自殺は,心理的に嫌悪感を生じる事由(心理的瑕疵)であるということができ,賃借するか否かを決める重要な要素となります。ですから,賃貸人は,少なくとも自殺後間もない時期に新たに賃貸する場合には,この事実を告知しなければなりません。
    これを怠ると,告知義務違反を理由として,詐欺により賃貸借契約を取り消すことができ,また,賃借人は損害賠償も請求できる余地があります。

  • ●建物賃貸借契約でペットの飼育を一律に禁止する条項は有効ですか。これに違反した場合,契約解除されますか。

    一般的には,一律にでも犬や猫などのペットの飼育を禁止する条項の有効性を認めています。なお,裁判例としては,この条項違反のみを根拠に賃貸借契約の解除を認めるものがあるほか,他の要素(例えば,室内や廊下等が汚れたなどの事情等)を考慮し,賃貸人と賃借人との間の信頼関係が失われたことを理由に解除を認めるものもあります。

  • ●私が契約した建物賃貸借契約書に「大音響でテレビ,ステレオ等の操作,ピアノ等の演奏を行うことを禁止する」旨の条項があります。この度,騒音のクレームを受けましたがどの程度の騒音で契約解除になりますか?

    生活する上で,生活音を発することはやむを得ないことですが,生活上我慢すべき限度(受忍限度)を超えている場合には,上記の条項違反となります。受忍限度を超えているかは,騒音の大きさ,種類,時間帯,頻度,やむを得ないものか等が判断基準となります。また,この基準に該当する騒音であって,中止することを何度も催告されてもそれに従わないときは,賃貸借契約の解除が有効となる可能性が高まります。

  • ●ペット可の物件で小型犬を飼っていました。この度部屋を解約したのですが,壁やフローリングの汚損にかかわる費用を請求されました。契約書には,これらの費用は借家人が負担するという特約があります。しかし私はゲージの中で小型犬を飼っていたので,壁や床等を傷つけたことはなく経年変化によるものです。支払わなければならないでしょうか?

    小型犬による壁,床等の破損ではないのですね。そうすると,そもそも,質問の中での特約の有効性については,借家人において通常損耗以上の修繕等の義務を負担する認識があったか否かが問題となりますが,一般には否定的です。そうすると,本件の賃借人は請求されるものを負担する必要はないと考えられます。

  • ●賃貸で店舗を経営しており,賃料は,売上げに応じてスライドすることになっています。最近ビルのオーナーから,周囲の店舗建物の賃料が増加傾向にあることを理由に,賃料の増額を求められました。賃料が営業売上げに応じて変わるのに,さらに増額されることがあるのでしょうか。

    売上げに応じて賃料がスライドする建物賃貸借契約であっても,建物の賃料が,租税維持管理費火災保険料などの負担の増,土地・建物の価格の上下,その他の経済事情の変動により,または相場の変動により近隣の同種の建物の賃料に比べて著しく不相当となったとき,賃料の増額が認められる可能性があると言えるでしょう。
    なお,事例判断ですが,最高裁は,このような特約は借地借家法32条1項ただし書で規定する賃料不増額の特約に該当するものでもないとし,賃料増額請求権を認めました。

  • ●私は賃貸家屋の大家です。更新時期が間もなく来ますが,賃借人に家賃の値上げを求めたところ,拒否されました。この時,法的にどのような手段をとることができますか。

    地代又は家賃の賃料の値上げ・値下げについては,当事者間での話し合いによって決めるのが原則です。この協議が調わないときは,原則として簡易裁判所に民事調停の申立てをすることが必要(調停前置主義)です。そして,調停が不調に終わったときは,賃料の増額請求訴訟を提起することになります。
    なお,裁判が確定するまでの間の賃料について,賃借人は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,自ら相当と考える賃料の額(従前の賃料額が相当と考えれば従前の賃料額であるが,それより低額であってはならない。)を支払えばよいとされています。

  • ●事業用定期借地権とはどういうものですか。

    事業用定期借地権とは専ら事業の用に供する建物(居住用を除く。)の所有を目的とする借地権のことで,いずれも公正証書によって借地契約を締結する必要があるものです。スーパーマーケット,医院,家電量販店等に多く,必ず公正証書によって締結されなければなりません。存続期間を30年以上50年未満である借地借家法23条1項の規定による事業用定期借地権と存続期間を10年以上30年未満である借地借家法23条2項の規定による事業用定期借地権があるものとされます。