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●労働基準法上の災害補償や労働者災害補償保険法上の保険給付における「業務上」に該当するか否かはどのような基準で判断されるのでしょうか?
業務遂行性と業務起因性の観点から判断されます。
業務遂行性とは,
当該労働者が労働契約を基礎として形成される使用者の支配ないし管理下にあることをいい,
業務起因性とは,
業務又は業務行為を含めて労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められることをいいます。
行政解釈では,事業主の管理下にあって業務に従事している場合には,業務起因性に対する反証がない場合には,業務起因性を認めることが経験法則に反しない限り,一般に業務上の災害とされます。
他方,裁判例の一般的認定基準では,事故性の傷害等の場合と非事故性の疾病の場合で使い分けているものと考えられ,事故性の傷害等については,業務起因性については,労働者が具体的業務行為ないしこれに付随する行為を行うなどしていて災害が発生した場合,反証のない限り,それが業務に起因して発生したものと事実上推定されるものとされます。但し,当該災害が自然現象,本人の業務逸脱行為,規律違反行為等による場合には,業務起因性は認めません。
他方,非事故性の疾病については,業務に内在する危険が現実化したか否かを基準に判断されているものとされます。 -
●うつ病等の精神疾患が労災と認定される場合とはどのような場合でしょうか。
精神疾患の発症が業務上,業務外あるかの判断は,
厚生労働省作成の認定基準
(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」平成23年12月26日基発1226第1号…
①対象疾病を発病していること,
②対象疾病の発病前おおむね6ヵ月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと,
の3つの要件が満たされれば,業務上認定をするもので,
②及び③に関して,別途定めた心理的負荷の評価表に基づいて業務上及び業務外の心理的負荷の強弱をそれぞれ評価し,
②が認められる場合,③業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない限り,業務上認定されることになります。)
に基づいて判断されます。 -
●通勤途中の事故による負傷の場合,労災保険の給付を受けることができますか。単身赴任中での帰宅の際や,副業先へ向かう途中に事故の場合はどうでしょうか。
通勤途中での負傷,疾病,障害,及び死亡については,労災保険による給付を受けることができ,また,給付の種類や金額は,業務上の負傷等の場合とほぼ同様です。但し,労働基準法上の補償とは異なることから,給付の名称が「補償」から「給付」と置き換えられます。
通勤災害と認定されるためには,「通勤」による負傷等に該当する必要があり,労働者が,就業に関し,
①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所から他の就業の場所への移動
③住居と就業の場所との間の往復に先行し,又は後続する住居間の移動
を,合理的な経路及び方法により行うことをいい,「単身赴任中での帰宅の際」は③に,「副業先へ向かう途中」は②に該当し,この場合,保険給付の手続は,副業の事業所において行うものとされています。 -
●労災保険と民事損害賠償請求とはどのような関係にあるのでしょうか?
双方は補完関係にあり,使用者に損害賠償義務がある場合には,労災保険給付と損害賠償請求は損益相殺として調整されます。
労災が発生をした場合,事業者は,労働基準法上の災害補償責任を負担し,保険給付がなされるべき場合は労働基準法上の補償の責めを免れ,保険給付が行われた場合,支払われた限度で損害賠償の責任も免れます。
しかし,使用者に安全配慮義務違反や不法行為として責任が発生し,保険給付を超える損害については,使用者は民法上の損害賠償義務があることになります。 -
●労災申請に対して不支給の決定がされた場合に,不服を申立ての制度を教えてください。
労働基準監督署長の決定に不服があるときは,審査請求や再審査請求をすることができます。
審査請求や再審査請求に対する決定に不服があるときは,行政訴訟を提起することができます。
従前,行政訴訟については,審査請求及び再審査請求に対する各決定を経た後でなければできませんでしたが,平成28年4月1日からは審査請求に対する決定が出れば,直ちに行政訴訟を提起することができるようなっています。 -
●労働基準監督署長による支給・不支給の判断基準や,審査請求・再審査請求に対する審査官等の判断基準と裁判所での基準は同じですか?
裁判所は,基本的に,行政機関が策定した基準を参考としつつ,具体的な事情を踏まえて総合的に業務上外の認定がされています。
また,行政基準に比べていくぶん緩やかに業務上認定をする傾向があります。 -
●労働者が業務上の事由による傷病で通院する場合,どのような補償を受けることができますか?
労災保険における療養補償給付(労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかったときに,当該労働者本人の請求に基づいて行われるもので,医療機関で治療等の現物の給付を受ける「療養の給付」と,療養の給付を受けることが困難な場合等に現金の給付を受ける「療養の費用の支給」があります。)を受けることができます。
前者は,労災保険において指定された医療機関において治療や薬剤の支給を無償で受けることをいいます。
後者は,現金の給付で,治療等を受けた医療機関が指定病院等でない場合など療養の給付を受けることが困難な場合等に,その費用の支給を受けるものです。 -
●労働者が業務上の事由による傷病で治療のために会社を休む場合,どのような補償を受けることができますか?
労災保険における休業補償給付(休業補償給付は,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかりその療養のために労働することができず,賃金を受けないときに,当該労働者の請求に基づいて行われるもので,賃金を受けない日の第4日目から支給されます。給付額は,原則として,対象となる1日につき給付基礎日額〈原則として労働基準法に定める平均賃金に相当する額をいい,業務上の負傷や死亡の原因である事故が発生した日又は診断によって業務上の傷病の発生が確定した日の直前3ヵ月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額を,その期間の暦日数で除した額をいいます。〉の60%に相当する額となります。)を受けることができます。
最初の3日は待機期間と呼ばれ,休業補償給付の対象ではありませんが,労働基準法に基づく休業補償の対象となり事業主が休業補償として1日につき平均賃金の100分の60を支払うものとされます。 -
●業務上の事由による傷病について長期に療養は必要となる場合,どのような補償を受けることができますか?
労災保険における傷病補償年金(労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり,その療養開始後1年6ヵ月を経過した日又はその日後に,障害の程度が一定の場合に,当該労働者の請求に基づいて行われる年金制度であって,給付される年金額は,障害の程度により給付基礎日額の313日,77日又は245日となります。)を受けることができます。
傷病補償年金の対象となる傷病等級は,障害の程度に応じて第1級から第3級に区分されたものであり,第1級は給付基礎日額の313日分,第2級は給付基礎日額の277日分,第3級給は給付基礎日額の245日分になります。
傷病補償年金を受ける場合は,休業補償給付は支給されませんが,傷病補償年金を受けていた労働者が当該年金の支給要件を満たさなくなった場合は,労働者の請求に基づき,要件に該当する限り休業補償給付が支給されます。
また,業務上負傷し,又は疾病にかかった労働者が,当該傷病の療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には,当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において,労働基準法81条の打切補償を支払ったものとみなされ,労働基準法19条1項の解雇制限が解除されます。 -
●労働者が業務上の事由による傷病が治ったあと障害が残った場合,どのような補償を受けることができるのでしょうか。
障害補償給付を受けることができます。障害補償給付とは, 労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかってそれが治癒した後に,一定の障害が残っているときに,当該労働者の請求に基づいて行われるもので,障害の程度に応じて年金又は一時金が支給されます
対象となる傷害等級は,障害の程度に応じて第1級から第14級に区分されたものに対応されるものです。
これに関連して,障害補償前払一時金と障害補償金差額一時金があります。前者は当分の間の措置として設けられたもので,障害補償年金の受給権者が社会復帰等のためにまとまった資金が必要になる場合があることを考慮して, 障害補償年金を一定額まで前払で支給する制度で,後者も当分の間の措置として設けられたもので,障害補償年金の受給権者が死亡した場合に,その者に支給された障害補償年金と障害補償年金前払一時金の合計額が,障害等級に応じて定められた額に満たない場合に,遺族の請求に基づき,その差額を障害補償年金差額一時金として支給される制度です。 -
●労働者が業務上の事由による傷病により介護が必要になった場合,どのような補償を受けることができますか?
介護補償給付を受けることができ,これは,障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が一定の程度の常時介護又は随時介護を要する状態にあり,実際に常時介護又は随時介護を受けているときに,労働者の請求に基づいて給付されるものです。
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●労働者が業務上の事由で死亡した場合,遺族はどのような補償を受けることができますか?
遺族補償給付を受けることができ,これは,労働者災害補償保険法で定める一定の遺族に給付される遺族補償年金(給付対象となり得る遺族は,妻は条件なく,その他は,一定の条件を満たすところの労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた配偶者,子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹がその対象となります。)と,遺族補償年金の対象となる遺族がいない場合などにその他の遺族に給付される遺族補償一時金があります。
また,遺族補償年金にはその一部を前払いする遺族補償年金前払一時金などの制度があります。
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●労働者が業務上の事由で死亡した場合の葬祭関係で受給できるものを教えてください。
葬祭料と言われるものです。これは,業務上で労働者が死亡したときに,葬祭を行う者の請求に基づいて給付されるもので,その額は315,000円に給付基礎日額の30日分を加算した額です。
ただし,その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は,給付基礎日額の60日分となるものです。
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●労災保険給付についての時効について教えてください。
労働災害における保険給付については,給付ごとに時効が定められていますが,療養の給付は現物給付であるため,また,傷病(補償)年金は労働基準監督署長の職権で支給が決定するため,時効はありません。特別支給金の申請期限及び起算日についての申請期限・起算日の順で以下の通りです。
各給付について