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「1」 物的損害(物損)とは何ですか?
人の身体以外に生じた損害のことをいい,車両や身に着けていた物が損傷したことによる損害です。
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「2」 物的損害を加害者に請求することができるのは誰ですか?
交通事故により車両が損傷した場合,加害者に対して損害賠償を請求することができるのは,車両の所有者であり,事故当時,運転をしていた使用者ではありません。但し,自動車を実質的に使用・収益していた,割賦販売等の買主やファイナンス・リースのユーザーなども損害賠償を請求することができると考えられています。
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「3」 物的損害を誰に請求することができますか?
直接の加害者,車両であれば加害車両の運転者に対して請求するのが原則です。
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「4」 加害車両の運転者以外の者に請求することはできますか?
使用者が,事業執行のために被用者を使用していて,被用者が事業の執行のために交通事故を起こした場合には,民法715条の使用者責任を根拠に使用者に対して賠償を請求することができます。しかし,自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条の運行供用者(自己のために自動車を運行の用に供する者)責任により,物的損害の賠償を請求することはできません。運行供用者責任は人身事故による損害賠償責任を認めるもので,物的損害の賠償責任を認めるものではないからです。
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「5」 未成年者が運転する車両によって物的損害を受けました。未成年者の親に賠償請求をすることができますか?
未成年者に責任能力がなければ民法第714条により,親権者に対して賠償責任を追及することができます。しかし,裁判例では,12歳くらいから責任能力を認めているので,免許を取得した未成年者による事故の場合,民法第714条を根拠に賠償責任を追及することはできません。但し,未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは,監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立します(最高裁昭和49年3月22日第二小法廷判決)。
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「6」 車両が損傷した場合,加害者にどのような請求ができますか?
修理が可能な場合
修理相当額が損害として認められます。なお,車両を修理する場合には,事故前の車両価額と修理後の車両価額の差額(評価損)について賠償が認められる場合もあります。また,修理費用が車両の時価及び買替諸費用を加えた金額を超えている場合(経済的全損)には,車両の損害として認められるのは,修理費用ではなく買替差額となります。
修理が不能な場合
事故時の車両の時価と事故後の車両の売却代金との差額(買換差額)が損害として認められます。
車両以外の損害
修理期間中や新車購入までの期間,代車が必要となった場合に,その台車費用が損害として認められる場合があります。なお,事故車両が営業用の車両などであった場合には,その車両を使用していれば得られたはずの利益(休車損)を損害として認められる場合もあります。車両が修理不能なため車両の買替を行った場合,買替のために必要となった費用(登録手続関係費)も損害として認められます。
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「7」 自賠責保険で物的損害を請求することができますか?
自賠責保険は,人身損害のみが補償の対象となっています。物的損害は自賠責保険で補償されません。
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「8」 物的損害について慰謝料を請求することができますか?
原則として認められませんが,極めて例外的に物的損害について慰謝料が認められた裁判例も存在します。