• 「1」 親権とは何ですか?

    親権とは,親が(未成年の)子に対して,身分上・財産上保護監督し,養育に関する権利・義務のことをいいます。

  • 「2」 親権者となれる人は誰ですか?

    未成年の子の両親が婚姻している間には父母双方が,両親の一方が死亡した場合には,他方の生存親が単独の親権者となります。両親ともに死亡した場合には,未成年後見が開始されます。両親が離婚した場合には,そのどちらか一方を親権者として定めます。
    また,未成年の子が養子になった場合には,その養親に親権が移り,養親が親権者となります。
    ただし,未成年の子の単独親権者である親が婚姻し,婚姻相手がその未成年の子を養子にした場合には,養親と実親が共同親権者となります。

  • 「3」 親権の具体的内容を教えてください。

    親権の内容として未成年の子に対する身上監護権と財産管理権に分けて考えることができます。

  • 「4」 親権の身上監護権とはどのようなことができるのですか?

    子どもに対する①監護及び教育,②居所の指定,③懲戒,④職業の許可と考えられています。
    ①の監護とは,身体・精神の発達を監督して危険などから防衛保護する行為,教育とは身体・精神の完成をはかる行為と定義されることがありますが,一体不可分の概念とされています。
    ②の居所の指定とは,子に対する監護教育を全うするために,親権者は子どもの居所を指定できるとともに,その裏返しとして,子どもは親権者の指定した場所に居所を定めなければならない,という義務があります。
    ③の懲戒権は,子に非行があった場合に,更生教育のために身体・精神に苦痛をともなうような懲罰を与えることができるものです(民法822条)。ただし,懲戒権は子の教育のためであり,目的を逸脱したり,内容として過剰な場合には,懲戒権の濫用として親権喪失の理由になる可能性があります。
    ④未成年者が職業を営むためには,子の身体及び精神の発達状況や技術,能力,適性等を最も認識している親権者の許可が必要になります。営業を許可された未成年者は,営業行為について成年擬制され,成人と同じ行為能力をもつことができます。

  • 「5」 親権の財産管理権とはどのようなことができるのですか?

    子どもに対する①財産の管理,②財産に関する法律行為の代理,とされています。
    ①の「管理」には,財産の保全,財産の性質を変えない利用,財産の改良,財産管理目的の範囲内の処分等広く含まれます。
    例えば,相続等で未成年者が建物を取得した場合に,その建物を修繕することは「財産の保全」に,収益のために賃貸することは「財産の性質を変えない利用」に当たります。また,未成年者の普通預金を定期預金にすることは「財産の改良」に,未成年者が所有している株式が値下がりのおそれがあるため,その株式を売却することは「財産管理目的の範囲内の処分」に当たるとされています。
    例外的に,未成年者が親権者に許可された営業行為で得た財産(民法6条),親権者が未成年者自身による処分を許可した財産(民法5条),第三者が親権者に管理させない意思表示をして,無償で未成年者に与えた財産(民法830条),未成年者自身が労働契約に基づいて得た賃金(労働基準法59条),は親権者の管理対象財産にはなりません。
    ②は,未成年者の財産上の法律行為を指すとされています。具体例としては,未成年者名義の預金口座の開設,私立学校の在学契約などがあります。
    財産管理権についても親権者が代理権を濫用した場合には,親権喪失や管理権喪失の理由になります。

  • 「6」 監護者となれる人は誰ですか?

    監護権者とは,親権のうち身上監護について,親権者とは別に定める必要がある場合に,身上監護権のみを担う人のことをいいます。
    典型的なのは,婚姻中の父母が別居している場合に,どちらか一方の親が身上監護をする必要があるため,一方の親を監護者とすることがあります。
    また,子の福祉の観点から監護者は指定されるため,子の祖父母など,親以外の第三者であっても身上監護に適している人物が監護権者に指定されることもあります。

  • 「7」 未成年の子が共同親権に服している場合に,一方の親のみでなされた行為は有効ですか? 

    親権は原則共同して行使される必要がありますが,父母の一方が親権を行使できない事情がある場合には,例外的に単独行使が認められています(民法818条3項但書き)。
    問題になるのは,①共同親権者の他方に親権の共同行使ができない事情がないにもかかわらず,共同親権者の一方が単独で行った親権行使の場合と②共同親権者の一方が他方の親権者の了解を得ずに,共同名義で親権行使をした場合の2つが考えられます。
    ①の場合,一方の親権者が勝手に単独名義で子どもの法律行為を行うため,有効な法律行為とは言えず,判例は無効な行為と判断しています(最高裁昭和42年9月29日参照)。ただし,一般的には,無権代理行為として扱われ,他方の親権者が追認した場合には有効な法律行為となります。また,相手方が,単独で行為をした親権者に権限があると信ずべき正当な理由がある場合には,相手方が保護されることがあります。
    ②の場合,法律上,他方の親権者の意思に反していたとしても,取引の安全の保護から有効な法律行為として扱うとされています(民法825条本文)。ただし,相手方が,その法律行為が他方の親権者の了解がなく無断で行われたことを知っている場合には,その法律行為は有効にはならないとされています(民法825条但書き)。

  • 「8」 親権者と子の利益が相反する場合には特別代理人を選任しなければならないとされていますが,どのような場合が利益相反に当たるのですか?

    ①親権者にとっては利益になるが,未成年者の子にとっては不利益になる行為,または,②同一の親権者の親権に服する何人かの未成年者のうち,一部の者に利益となり,他の者にとって不利益になる行為のことをいいます。
    ①の例は,父Aが亡くなり,その相続人が妻であるXと未成年の子どもY1のような場合です。Xは,自身の妻としての相続人の地位と未成年Y1の親権者としての2つの地位を持つことになります。この場合,Xが自身に有利な相続をすれば,それは相続人であるY1にとって不利な内容の相続となり,利益相反の状態になっています。
    ②の例は,母Bと離婚した父Aが死亡し,その相続人がAB間の未成年の子どもX・Y2名だけの場合です。X・Yの親権者であるAが,XあるいはYの一方の利益のために動けば,もう一方の相続人であるYにとって不利益になり,利益相反の状態になっています。
    そのため,上記①②のような場合には,親権者に代わる特別代理人を選任しなければなりません。
    そして,利益相反に当たるか否かの基準は,判例上,親権行使の対象行為自体を外形的客観的に考察し,行為の目的・動機や結果から判断すべきではないとされています(最高裁昭和42年4月18日参照)。例えば,親権者が未成年の子の養育費ために金銭を借り入れるに当たって,その子が所有する不動産に抵当権を設定する行為は,子のための行為ではありますが,外形的には,親権者と子の利益が対立するため利益相反行為に該当することになります。利益相反があるにもかかわらず親権者が特別代理人を選任せずにした行為は,無権代理に行為になるとされています(最高裁昭和46年4月20日参照)。
    この場合,子どもは成人になった時に追認することができます。また,法定代理人による適法な同意が無い行為として取り消すことも可能です。

  • 「9」 調停・審判で親権者・監護者を指定する場合の基準を教えて下さい。

    子の福祉の観点から総合的に事情を考慮して判断されます。考慮される事情の例は以下の通りです。
    ●親側の事情
    ・生活歴:学歴,職歴,婚姻・離婚歴,転居等家庭生活や社会生活の出来事・就労状況:職業,勤務先,職務内容,勤務時間,通勤方法等
    ・経済状況:収入,支出,負債の有無等
    ・心身の状況:健康状態,病歴等
    ・家庭状況:住居の状況,同居家族の有無・状況等
    ・看護補助者の状況:監護補助の実績等
    ・監護方針:今後の監護方針,監護環境,親権者に指定されなかった親と子の面会交流についての意向等)
    ●子どもの側の事情
    ・生活歴
    ・過去の監護・養育状況
    ・心身の状況
    ・現在の生活状況(家庭での状況,学校等での状況,非監護親との交流の状況等)
    ・両親の紛争に対する認識の程度
    ・子の意思

  • 「10」 親権者及び監護者の変更はどのような場合にできますか?

    子の福祉のために必要があると認められる場合に,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方の親に変更することができます(民法819条4項)。
    親権者の指定の場合とは異なり,親権者の変更には義務の放棄が含まれるため,必ず家庭裁判所の調停又は審判によって行われなければいけません。
    親権者・監護者の変更には,先になされた指定後の事情の変更が必要になります。変更に当たっては,親の監護体制,子に対する監護意思,子どもの年齢・心身の状況,子の置かれている環境の継続性,子自身の意思などを総合的に考慮して,子の福祉の観点から必要性の有無を判断します。
    子が親権者・監護者から虐待を受けていることが明らかなような,子を保護すべき緊急の必要性がある場合には,親権者変更の申立てと同時に審判前の保全処分を求めることができます。
    この保全処分をすることで,親権者・監護者の変更の結果が出る前に,緊急措置として,子の引渡しを求めることができます。