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●離婚の種類にはどのようなものがありますか?
離婚には,大きく分けて協議離婚,調停離婚,審判離婚,及び裁判離婚(判決・和解・認諾)の4種類があります。
実務上は,協議離婚が最も多く,調停離婚,和解離婚,判決離婚の順に続きます。
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●協議離婚とはどのようなものですか?
離婚届用紙に,双方当事者及び成人2人の証人が,署名・捺印して役場に届け出ることよって成立する離婚です。なお,未成年の子がいる場合には,その親権者を決め,記入をしなければ役所に離婚届を受理してもらうことはできません。
実務上,役所は離婚届の様式が整っていれば離婚届を受理し,離婚が成立します。そのため,夫婦喧嘩の勢いで離婚するつもりもないのに離婚届に記入をしてしまったり,他方配偶者に離婚届を勝手に記入され届出をされてしまった場合にも形式上,離婚は成立してしまいます。
このようなおそれがある場合には,本籍地の戸籍係に離婚届の不受理の申し出をすることで役所が離婚届を受理する事を防ぐことができます。平成20年5月1日の法改正により現在は,不受理申出の取下げがあるまで期限の制限なく効力が生じることになりました。
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●協議離婚をする際に注意すべきことはありますか?
協議離婚は,双方に離婚の意思さえあれば簡便かつ速やかに離婚できますが,子どもの養育費や財産分与などの離婚に関連する問題については,自ら相手方と取り決めをしないといけません。財産分与等は,離婚後,請求できる期間が法律上決まっていますので,気が付いた時にはすでに請求できなかったというようなことも起こり得ますのでご注意ください。
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●調停離婚とはどのようなものですか?
家庭裁判所の家事調停手続きによる離婚です。家庭裁判所において,別席で個別的に調停委員が双方の事情を聴き取り,当事者双方が離婚について協議を行いきます。
その結果,離婚あるいは円満方向の合意に達した場合には調停成立となります。話し合いが合意に達しない場合には調停不成立となります。それでも,離婚を希望する場合には,離婚訴訟を提起することになります。
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●裁判離婚とはどのようなものですか?
第三者である家庭裁判所に離婚原因があるかを審理してもらい,離婚できるか否かを判断してもらう方法です。
離婚訴訟をするためには,原則,離婚調停を経ていなければなりません(調停前置主義)。離婚は当事者の身分関係を決めるものであるため,まずは当事者間での話し合いを行い,それでもまとまらない場合に離婚訴訟が認められています。
調停前置主義を満たすかどうかは実質的に離婚についての話合いが当事者間で行われたのか否かで決まります。そのため,たとえ離婚調停が取下げによって終了したとしても,実質的に話し合いがなされていれば調停前置の要件を満たしていると扱われることがあります。
また,相手方が生死不明,行方不明,心神喪失の状態にあるなど,話し合い自体が期待できない場合には,調停を経ずに直接離婚の訴えを提起できます。
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●裁判離婚に関連する問題としてどのようなものがありますか?
裁判離婚に関連する問題として以下のものが考えられます。
①子どもに関すること
・親権者の指定
・養育費の請求
・子どもの引渡し
②離婚と経済の関係
・財産分与
・配偶者に対する慰謝料請求
・年金分割
これらの問題は,離婚請求と共に,あるいは附帯処分として家庭裁判所に請求をすることができます。
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●離婚原因にはどのようなものがありますか?
協議離婚や調停離婚の場合には,当事者双方の合意があれば離婚できますが,裁判離婚の場合には,法律で定められた離婚原因が必要となります(民法770条)。
法律で定められた離婚原因は以下の通りです。
1号:配偶者に不貞な行為があったとき
2号:配偶者から悪意で遺棄されたとき
3号:配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
4号:配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき
5号:その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
裁判所は,上記の1号から5号までの離婚原因いずれかが認められないと,裁判離婚を認めません。そのため,実務上では,具体的事情についての1号から4号について主張するとともに,あわせて5号も主張することが多いです。また,5号は最も多く主張される離婚原因でもあります。
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●離婚原因の不貞行為(770条1項1号)とはどのようなものを言いますか?
不貞行為とは,配偶者がいる者が,配偶者以外の者と性的関係をもつことを言います。
一夜限りの性交渉や風俗店での性交渉も不貞の定義には該当しますが,この事情だけで離婚原因としての不貞行為があるとして離婚が認められる可能性は低いと思われます。しかし,これらの事情が原因となって婚姻関係が修復困難なほどに破綻したと認められる場合には,5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。
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●不貞行為をした配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は認められますか?
原則認められません。
しかし,判例上,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び,②夫婦間に未成熟の子がおらず,③離婚を求められた配偶者が,その離婚により精神的,社会的,経済的に極めて苛酷な状態にならないことなどを総合的に考慮し,不貞行為をした配偶者からの離婚請求が認められる場合があるとされています(最高裁判所昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)。
①の別居期間は,単にその期間の長短だけで判断するのではなく,別居期間と両当事者の年齢と同居期間,別居後の事情の変化などを総合的に勘案して,有責配偶者からの離婚請求が信義誠実の原則に照らして許容されるかという視点で判断されています。近年,短くなってきている傾向にあります。
②の未成熟の子は,裁判例上は,おおよそ「高校を卒業するくらいの年齢」を上限としているようです。
③の離婚によって相手方配偶者が苛酷な状態に置かれるか否かは,夫婦双方の職業・収入,生活状況,有責配偶者が別居中の生活費を支払ってきたか,財産分与や慰謝料としてどの程度の金額を申し出ていたか,といった事情を総合的に考慮されます。
ただし,本判例は,上記3つの要素がある場合に総合的に考慮して有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があることを示したものですので,これらの要素があれば必ず離婚が認められるといったものではありませんので注意が必要です。
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●悪意の遺棄(770条1項2号)とはどのようなものをいいますか?
夫婦には相互に扶助・協力する義務がありますが(民法752条),婚姻関係を破綻させるほどの程度の強い扶助・協力義務違反が離婚原因の悪意の遺棄に該当します。
半身不随の身体障害者で日常生活もままならない妻をおいて夫が家を出て,正当な理由もないのに長期間生活費を全く送金しなかったという事案で裁判所は,夫の行為は遺棄に当たるとして妻からの離婚請求を認めた裁判例があります(浦和地方裁判所昭和60年11月29日)。
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●4号の「配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき」とは具体的にどのようなときをいいますか?
法律は,「回復の見込みがない」ことを要求しているため,単に精神病に罹患したというだけでは離婚理由にはなりません。
夫婦として精神的な交流をすることができず,夫婦で助け合うことができない程度に強い精神病にかかっていることが必要です。
また,4号に該当しない場合であっても,病状によっては夫婦の協力義務を果たすことができないだけでなく,精神的交流までもが阻害されるような場合には,5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
ただし,その場合にも,判例は5号の該当性の判断に当たって,療養看護の具体的方途等,諸般の事情を併せ考慮した上で総合的に判断するとされています(最高裁判所昭和36年4月25日民集15巻4号891頁)。
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●5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは具体的にどのようなものがありますか?
例えば,性関係の不存在(セックスレス),性格の不一致,配偶者の浪費,配偶者の両親との不仲等が具体例として挙げられます。
単にこれらの事由があれば「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」として離婚原因が認められるというものではありません。具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。
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●一度,浮気をしてしまい,妻にそのことが発覚しました。そのたった一度の浮気を理由として,妻から離婚を求められていますが,その一度の浮気が離婚原因になりますか?
不貞行為が離婚原因になると定められていますが(民法770条1項1号),たった一度の浮気のみでそれが離婚原因になり離婚が認められる可能性は少ないと考えられます。
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●リストラで会社を解雇されました。すると,収入の無い夫とは一緒に生活をすることはできないとして,妻が離婚を申し入れてきました。離婚しなければなりませんか?
夫婦は同居し,互いに協力し扶助する義務があります(民法752条)。妻に生活費を渡さず,そのため妻子の生活が困窮することになれば,夫の協力扶助義務違反ということになり,再就職に向けた努力もしないような場合には,「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚が認められた裁判例もあります。
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●「性格の不一致」を理由として,妻が離婚を求めてきました。離婚に応じなければなりませんか?
「性格の不一致」により,婚姻関係が修復できないほど破綻して「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当するということになれば,離婚が認められることになりますが,個々の様々な事情を検討する必要があります。
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●「家事に専念するため仕事をやめて欲しい」と妻に頼むと,妻は離婚の話を切り出してきました。その頼みが離婚事由になりますか?
妻に対して仕事を辞めることを求めることが,離婚事由になるとは考え難いです。
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●妻が子を虐待しています。離婚することができますか?
子への虐待それ自体が,直ちに民法の定める離婚事由に該当するものではありませんが,虐待が原因で,夫婦関係が修復することのできないような状態に至れば,「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当し離婚することができます。
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●離婚届の不受理申出は,どのような場合にするのですか?
夫婦の一方が勝手に離婚届を提出する場合など,知らない間に離婚届が提出されることを防止するためなされます。
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●どのような場合に,離婚届が不受理とされるのですか?
前述した離婚届の不受理申出がなされている場合の他,離婚届の記載に不備があり,補正できない場合に不受理とされます。
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●離婚により氏を改めた夫又は妻は婚姻前の氏に復するとされていますが,婚姻のときに称していた氏を称することはできないのですか?
離婚によって婚姻前の氏に復した夫又は妻は,離婚の日から3か月以内に届出をすることによって,離婚の際に称していた氏を称することができます(民法767条2項)。
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●離婚によって婚姻前の氏に復する者は,必ず婚姻前の戸籍に入籍することになるのですか?
両親が既に亡くなっていて婚姻前の戸籍が除籍されている場合や,復氏をした者が新戸籍編製の申出をした場合には,新戸籍が作られます(戸籍法19条)。
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●離婚によって夫・妻・子の戸籍は,どのようになりますか?
婚姻によって妻が氏を改めたとします。
離婚した場合,妻は婚姻前の氏に復し(民法767条),婚姻前の戸籍に復籍するか,新戸籍が作られることになります。
他方,夫の戸籍は,夫について身分事項の欄に離婚の事実が記載され,妻について除籍されますが,子については父の戸籍に入ったままとなります。
そのため,母親が子の親権者となったとしても,それだけでは父親の戸籍に子が入ったままなので,母親の戸籍に子を入れるためには,別個,裁判所に対して,子の氏の変更許可の申立てをする必要があります。