第9話 「『そのうち...』ではダメ!遺産分割」

※この事例はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

相談者:小林 一郎 遺産分割問題に悩む、小林家の慌て者の長男
解答者:森弁護士 精力的に業務をこなす来年で四年目弁護士

、母、長女、長男、次女の五人家族、小林家。

 

頑固なお父さん、心配性なお母さん、少しケチな長女、慌て者の長男20歳、高校生活を謳歌する次女の小林家は、ごくごく普通の一般家庭として、多少のケンカはあれど、家族仲良く暮らしていました。

 


小林家.png

しかし!ある日突然、交通事故でお父さんが亡くなってしまったのです。お父さんは遺言書を作っておらず、お父さん名義の家、車、預金、株式が遺産として残りました。


小林家遺産.png

さて、これらお父さんの遺した財産「遺産」を、遺された家族で、どう分けましょう?誰のものにしましょう?というのを決めるのが「遺産分割」です。


● 「遺産分割」はどうすれば成立する??
あまり知られていませんが、「遺産分割」は紙に書かず、言葉の約束だけでも、相続人全員の合意さえあれば成立します。しかし、口約束は後々問題となることが多いですから「遺産分割協議書」を作り、紙に残す方が安全です。さらに、せっかく紙に残しても、内容に不備があっては意味がなくなってしまいます。

小林家でも、早速「遺産分割」をすることとなりました。

しかし、当初、すんなりとまとまると思われた話し合いは、平行線をたどるまま...。次第に家族の雰囲気もギスギスしたものに...。

小林家の長男・小林一郎は、先の見えない言い争いに活路を見出すため、もみじ総合法律事務所・森弁護士の元へ相談にやってきました。


一郎:うちは絶対大丈夫、相続でもめることなんてないって思っていたんですけど...話し合いが全然進まなくて...

 

森弁護士:そう思っている方は多いのですが、「相続」「遺産分割」というのはデリケートな問題ですからね。どんなに仲のいい家族でも、揉め事に発展してしまうケースは多いんですよ。

 

一郎:そうなんです!姉さんが突然、車、株式、預金は全部自分がもらうって言い出して!!

 

森弁護士:(遺産内容を確認しつつ)相続財産の大半をお姉さんが相続したい...ということですね。お姉さんがなぜそんなことを言い出したのか、一郎さんはわかっていますか?

 

一郎:うーん、何か譲れない思いがあるみたいなんですが、正直、僕にはよくわからないんです...。難しい言葉を使われるし、向こうも感情的になっているので、言ってることがコロコロ変わるんです!

 

森弁護士:お姉さんがどうしてそのような主張をされるのか、確認する必要がありますね。

 

一郎:なるほど...。でも、最近じゃあ顔を合わせれば言い争いになって、話し合いどころじゃないんです。もう「遺産分割」はそのうち、向こうが落ち着いた頃でいいのかなと思っていて...。

 

森弁護士:距離の近い関係であればあるほど、辛い状況ですよね。しかし、「そのうち」と話し合いを持つタイミングを逃して、「遺産分割」をしないまま時が過ぎると、いざ、財産を活用するため、「遺産分割」をしようと思ったら、代替わり等で相続人の人数がふくれあがって、物理的に「遺産分割」が難しくなるケースもあります。

 
相続人増加.png

一郎:わー!こんな状態になってしまったら、話し合いどころではないなあ...。でも、「そのうち...」なんて言っていたら、こうなることもありうる、いうことですよね。

 

森弁護士:そうなんです。さらに、短期的な問題として、お父様の葬儀費用や相続税の支払いを、相続した預金から捻出されようと思っても、遺産分割を経なければ金融機関は払い戻しに応じません

 

一郎:!!!それは困る!!!

 

森弁護士:従来の判例では、「預貯金は相続開始によって当然に分割されるため、遺産分割の対象とならない」とされ、自己の法定相続分の払い戻しの交渉ができたり、葬儀費用分等の払い戻しに柔軟な対応をしてくれる金融機関もありました。しかし、近時に最高裁の判例に変更があり、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当」(最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定)と判断されました。

 

一郎:あー、ますますどうしたらいいんだろう~!!

 

森弁護士:一郎さん、落ち着いてください。

遺産分割には3つのステップがあります。

   遺産分割協議(相続人同士で話し合い、財産の分け方を決める)

   遺産分割調停(家庭裁判所において、調停委員が橋渡しとなり、協議を進めてくれる)

   遺産分割審判(相続人の合意がまとまらない場合、家庭裁判所の裁判官が、審判という決定で、強制的に財産の分割の方法を決める)

 

 小林家の皆さんは①の段階です。実はこの段階から弁護士が間に入り、協議が円滑に進むようサポートすることができます。

 

一郎:そうなんですかっ!弁護士さんにお願いできるのは裁判だけなのかと思っていました。具体的には?どんなことをしてもらえるんです??

 

森弁護士:依頼者に代わって相手方と交渉することができます。一郎さんの場合、揉めている相手方・お姉さんと直接話し合いをしなくてもよくなります。お姉さんの主張が、寄与分や特別受益の持ち戻し等、法的にどのような主張にあたるのかも弁護士が適切にアドバイスすることになります。

 

一郎:そうそう、その寄与分?特別受益??なんだか姉さんが口にしていたような...、どういうものなんですか?

 

森弁護士:はい。【寄与分】とは、簡単に言えば、お父様(被相続人)の財産を増やす事に貢献した人に配慮して、財産を多く与えようという制度。

【特別受益】とは、遺贈、生計の資本としての生前の贈与など、被相続人から特別に受けた利益のことを指します。他の相続人との公平を期するため、受けた利益分を相続する財産から差し引こう、というのが【特別受益の持ち戻し】ですね。

 

一郎:そういう意味だったんですね...説明を聞いてようやくわかりました。


● 勝手に引き出した預金は特別受益??
【特別受益】とは、あくまで被相続人が、その意思に基づいて交付した財産をいいます。例えば重篤な認知症にかかっているおばあさんの預金を相続人が勝手に引き出していても、特別受益にはあたらないことが多いでしょう。(遺産分割調停の場等で、勝手に引き出した預金を、特別受益とする合意を相続人全員ですることは可能です)


森弁護士:あと、小林さんご一家の場合、遺産分割協議をする上で、二つ注意する点があります。まず、お父様は交通事故でお亡くなりになられていますので、事故に対するお父様自身の【損害賠償請求権】及び【慰謝料請求権】も相続財産となる点。これらの権利は法定の期間内に権利を行使しないと時効で消滅してしまうということもあるということです。

もう一つは、高校生、未成年である妹さんの利益を保護するために、一定の場合を除いて、妹さんの特別な代理人を選んで、遺産分割手続きを行わなくてはいけない点。この特別代理人を選任するための家庭裁判所への申立も、弁護士が代理して手続きをすることも可能なのです。

 

一郎:至れり尽くせりですね!

 

森弁護士:調停や審判段階へ進めば、裁判所に書類を提出したり、平日の日中、裁判所に出向く必要も出てきます。しかし、そちらも弁護士が書類をつくったり、一緒に調停に出席したり、代わりに出席したりもできます。

 

一郎:どうしたら前に進めるのかわからなくて、いつも以上にあせりましたが、ほっとしました!森先生、今後ともよろしくお願いしますね!!

 

森弁護士:あたた...一郎さんの思いは十二分に伝わりましたよ。一緒に納得のいく遺産分割を目指しましょう!