第8話 「我が子思うがゆえに・・・」

相談者:山村 太郎 子ども思いなサラリーマン(以下、「山村」という。)

解答者:森弁護士 光り輝く新人弁護士

 

山村:どうも、はじめまして、山村と言います。よろしくお願いします。

 

森弁護士:弁護士の森です。よろしく、お願いします。

  今日のご相談は、お子さんに関することと聞いているのですが。

 

山村:はい、そうなんです。

実は、去年の4月に妻が子どもたちを連れて、今も別居中なんですが、妻が子どもに会わせてくれないんです。

 

森弁護士:お子さんとはどれくらい会っていないんですか?

 

山村:別居直後は、月1回程度のペースで子どもたちと会うことが出来たのですが、半年ほど前から急に会えなくなってしまったんです。

 

森弁護士:なぜ、会えなくなってしまったんですか?

 

山村:なぜって、わかりませんよ。妻と連絡を取り合って、子どもと会う日を決めるんですが、決まって当日になって、子どもが熱を出したとか、妻のパートが急に入ったとか、理由をつけて延期になるんです。

  まあ、最初はこういうことが続くこともあるのかな、と信じていたんですが、さすがに、これが4回、5回続いたので、怪しいと思って。

  先月なんか、「待合せ場所まで行く電車賃が無い」とか...彼女も相当のキャリアウーマンで収入は私よりあるのですよ...もうさすがに我慢の限界です。僕にとって、子どもは生き甲斐そのものなんです。僕も親なのに、妻が子どもを独り占めして、会えないなんておかしいじゃないですか!!!

 

森弁護士:まあまあ、少し落ち着いてください。山村さんが、お子さんに会いたい気持ちはよく分かりました。確かに、電車賃がない、は酷いですね(苦笑)。

 

山村:笑いごとじゃないですよ、先生。妻には、子どもによかれと思い生活を切り詰めてお金も送っているんです。

  どうしても会いたいので、学校や幼稚園の終わりに、子どもたちに会い行ってはだめなんですか。

 

森弁護士:気を付けてください。離婚が成立するまでは、山村さんも親権者であることに変わりはありません。ですが、妻・子どもと別居し、離婚係争中の夫が、自身で監護することを目的に、保育園から帰宅途中の当時2歳の子どもを、祖母が目を離したすきに、抱きかかえ、あらかじめ発進準備をしていた自動車に乗せ、制止する祖母を振り切って連れ去った、という事案で誘拐罪が成立したケースもあります(最高裁判所平成17年12月6日第二小法廷決定)。

  別居中の親が、子どもに会いに行ったからといって直ぐに誘拐罪になるわけではありませんが、同居している親を刺激して、余計に子どもとの面会を拒否するようになるかもしれません。

  

山村:えぇ!僕は、あの子たちの親なんですよ!それなのに誘拐だなんてたまったもんじゃない。こんな調子で、実際に離婚してしまったら、もう二度と子どもたちに会えなくなるのではと思って心配で。どうにかなりませんか?

 

森弁護士:家庭裁判所へ「面会交流の調停」を申立てて、裁判所を使って奥さんと話し合いをしましょう。

 

山村:どういった事を話し合うのでしょうか?

 

森弁護士:簡単に言えば、子どもと会うための基本となるルールについてです。

 

山村:もし、相手との意見が合わずに、合意できなかったらどうなるんですか?

 

森弁護士:その場合には、調停自体は不成立となりますが、「審判」と言って、裁判所が子どもに適した面会交流の内容を判断して決めます。

  相手方は、裁判所がした審判に不服があれば、「抗告」といって上の裁判所で争うことができますが、裁判が確定すれば、基本、相手方は裁判所で決まった内容に従わなければなりません。

 

山村:仮に、裁判が確定しても、妻が従わない場合どうなるのですか?

 

森弁護士:面会交流を拒否する親に対して、それを促す手段はいくつかあります。

ですが、理解して頂きたいことがあります。面会交流は、調停・審判が終了した後に、それに従って、反復継続して実施されていくものです。その実現は、子どもと同居している親との協力・信頼関係の下に、実現できるものだということです。

  ですが、夫婦双方が敵対的な関係になってしまうと、たとえ、面会交流が実現しても、子どもが板挟みになってしまいます。そのような状況が続けば、子どもも面会交流に対して拒否反応を示してしまう可能性があります。そのようにならないためにも、調停でよく話し合うことが大事なんです。

 

山村:わかりました。

 

森弁護士:まずは、家庭裁判所からの「履行勧告」です。これは、調停や審判で決定した内容について、約束違反があった場合には、家庭裁判所から相手方に対して約束を守るように忠告してもらうことです。

 

山村:妻が裁判所からの忠告を無視したら何かペナルティはあるんですか?

 

森弁護士:残念ながら、この履行勧告には、強制力がありません。なので、たとえ無視されても、何のペナルティもないんです。手軽な方法ですが、効果がでないこともあります。ですからこれも広い意味では相手方が自らの意思で審判に従うということに含められると言えます。

  

山村:もっと、実効的といいますか...

 

森弁護士:次は、相手方が故意的に面会交流を拒否している場合、それによって精神的苦痛を受けたとして、慰謝料を求める損害賠償請求もできます。

ただ、これも単に調停・審判で決められた面会交流の内容があるのに、それに従わないという理由だけで認められるものではありません。

 面会交流では、子どもの心身の成長にとって有益であるか、という「子の福祉」の観点が重視されます。面会拒否による損害賠償が認められるのは、面会交流をしても、子の福祉に反することは何もないのに、同居親の身勝手な理由で面会拒否がされたような限定的な場合に限られるでしょう。

 

山村:面会交流を実現できるような方法はないのですか?

 

森弁護士:最終的な手段と言ってもいいのかもしれませんが、「強制執行の申立」もしうるということです。これは、調停や審判で決定した内容があるにもかかわらず、相手方がそれに従わない場合に、1回につき金○万円を払えという、命令を裁判所に出してもらうものです。

 

山村:そう!それそれ。そういうのを待っていたんです。それやりましょ。

 

森弁護士:落ち着いて、落ち着いて。まずは、調停又は審判で約束事を決めなければいけませんし、それがあっても、裁判所は簡単に強制執行を認めません。

 

山村:なんでですか?決められたことを守るのは常識じゃないですか!

 

森弁護士:その通りです。ですが、最高裁判所は、「面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、この引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないと言える場合」には、「審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。」(最高裁判所平成25年3月28日第一小法廷決定)として、間接強制ができることを示したに過ぎません。

 

山村:だったら、損害賠償や間接強制をする可能性があることを見越して調停・審判をしたいです。

 

森弁護士:山村さんの、子どもたちに会いたいという熱い気持ちはもっともですし、よく分かります。その思いを調停・審判の場でぶつけましょう。

  ただ、先程も説明したように、面会交流は、相手方との協力が必要不可欠です。先程の最高裁決定も面会交流は「監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい」と言っています。

  面会交流を拒否している親に対して、さらに損害賠償や間接強制などの強硬的な手段を取った場合、むしろ、より敵対心を抱き、頑なに面会交流を拒否する可能性もあります。

損害賠償や間接強制を見据えて調停をするのではなく、まずは子どもたちにとっても、山村さんにとっても幸せな面会交流を実現するための調停にしましょう。そのお手伝いを私もさせていただきます。

 

山村:先生、わかりました。子どもの事になると直ぐに周りが見えなくなってしまうんです。よろしくお願いします。


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