第7話 「お財布は一つのジレンマ~養育費の減額」

※この事例はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

相談者 山下 純 公務員(以下「山下」という。)

解答者 森弁護士 まだまだフレッシュ!若鯉弁護士


山下:はじっはじめまして。相談はこちらでさせていただいてもよろしいですか?


森弁護士:山下さん、はじめまして。どうぞこちらでお話しください。本日は無料相談会をご利用ということで、相談料は結構です。


山下:お財布にやさしく助かります。でも、こういう場所ははじめてなので、身の置き場所がないといいますか、緊張しますね。


森弁護士:そうですよね、みなさんはじめは緊張なさるのですが、相談されるうちにほぐれると思いますので、どうぞゆっくりお話しください。

山下:どうも、すみません。

 そうですね、えっと事の始まりは、私が今から7年前に前妻と離婚したときです。その協議の際、妻から月額20万円の養育費を請求されたのです。お金を払わないと絶対に別れないと言われまして。

 私は年収が500万円なので、月々の給料の半分くらいを妻に持っていかれる額ですが、僕も協議で感情が高ぶっていたものですから、とにかく早く離婚したい一心で、その額のに同意し、双方連れ立って公証役場におもむいて、養育費20万円の公正証書を作成しました。

 今になって、その養育費を支払わないとは言いません。ですが、養育費を減額することができないか相談させていただきたいのです。


森弁護士:養育費の減額をご希望なのですね。

 まず、月額20万円の養育費の額はどうやって決まったのでしょうか。お子さんは何人いらっしゃいますか?


山下前妻との子供10歳になる男の子が一人います。

 私立の中高一貫校に入学したのでお金がかかるのよ、なんていわれたのです。子供のことは妻にまかせっきりだったので、そんなものかとその時は思ったのです。しかし、実際、払い始めて7年、本当に生活が苦しくて・・・・年収も最近50万円ほど少なくなってしまって。


森弁護士:山下さんの養育費は、裁判所などで利用されている養育費の算定基準などと比して高額と言えるでしょう。しかし、高額ということから直ちに養育費の減額を認めることはできません。なぜなら、山下さんは当時も不本意な部分があったとしても、離婚時に養育費を20万円とすることに合意、つまり、約束をしたのですから。しかも、公正証書と言う非常に重みのある書面を作成したことも無視できません。


山下:そうですか。でも減額してほしいと思ったのはそれだけではありません。実は離婚した後、ある女性と再婚したのです。このたびその妻が妊娠したので、子供が産まれると増々、今の生活が苦しくなります・・・妻は妊娠を契機に会社も辞職しましたし。


森弁護士:なるほど、結論から言えば、山下さんが再婚された方との間に実際にお子さんをさずかったりすれば、現在の20万円の養育費の減額が認められる可能性は高いでしょう。


山下:本当ですか?前妻からこの養育費の額でいいのね?って念を押された時にも、離婚協議書に判を押した時にも、「男に二言はない!」って言い放ってしまいました・・・しかも公正証書まで作ってしまっていますし・・・


森弁護士:たしかに、公正証書は確定判決と同一の効力をもちますから、このような重要な書面を作成した意味は無視できません。

 しかし、協議などした後にどのような事情の変化があっても一旦、決められた養育費の額を変更できない、そこまで法律は冷たいものでもないのですよ。

 その事情の変化がどのようなものかで、減額の肯否が振り分けられることになります。


山下:そうしたら、減額が認められる場合とそうでない場合は、どうちがうのでしょうか?


森弁護士:簡単に言いますと、協議などの際に把握していなかった、つまり、予見できなかった事情の発生、消滅などの変化があって、その変化が重要なものであれば、養育費の減額も可能となってくるのです。

 逆に言えば、このような事情の変化でなければ減額は難しいということです。

 例えば、山下さんの年収が500万円から450万円に減少した、などの理由では減額は難しいと思われます。


山下:へー、そうなんですね。やはり、減額の請求は止めるべきなのでしょうか・・・


森弁護士:いいえ、そうとは限りません。今回、山下さんには再婚相手の方との間にお子さんができるとのことですよね。山下さんからすると、前妻との間とのお子さん、再婚相手のお子さんは等しく扶養するべきお子さんなわけです。しかし、お財布は一つしかない。そこに悩ましいジレンマが生じるわけですが、ただ、元々、設定された養育費が高額であったがために、再婚相手との間にできたお子さんに対し扶養する義務の履行がおろそかになってはいけません。

 ここにいたるまでの経緯、そして新たにお子さんを授かったという事後の事情の変化から減額につきこれを裁判所で判断を仰いだ場合に認められる可能性はあるものと思います。


森弁護士:山下さんの前の奥様が再婚されて、再婚相手の旦那さんとお子さんが養子縁組をなさった場合、その旦那さんも基本的に前婚の間に授かった山下さんの実子に対して、扶養義務を負うことになりますから、山下さんの扶養義務が緩和され、結果、減額につながる要素になりうるものでしょうね。


山下:なるほど。ところで、仮に、自分に新たに子どもが授かり、前妻が再婚し、その方が養子縁組をなさった場合には私の養育費は免じられることもあるのですか。


森弁護士:いいえ、免じられるということはないと思いますよ。やはり、一旦、協議し決定された合意がある以上、それを全く反故にすることまでは法も考えていないわけです。変化の程度などを勘案して減じられるにとどまると考えるのが穏当です。


山下:ではまずは、前の奥さんと話し合いして決めようと思ってるのですけど、おそらく応じてはくれないと思うのですよ。


森弁護士:たしかに、いずれの方にとっても大事なお子さんのことにかかわることですから、まずは、話し合いをされることをおすすめします。

 しかし、どうしても双方の話し合いで決着がつかないということであれば、家庭裁判所に調停の申立てなどをするしかありませんね。それでも決着がつかなければ審判と言って裁判所に決めてもらうことになりますが。


山下:話し合いの段階から森先生に間に入ってもらえることは可能ですか?


森弁護士:もちろん、可能です。その場合には前妻の方に私が山下さんにかわってお手紙を出したり、面談でお話させていただいたりすることになろうかと思います。ですから、基本的には山下さんが前妻の方と直接に交渉する必要はなくなります。


山下:そうなんですね。なにしろ、弁護士さんの仕事の内容はよくわからないもので・・・間に入ってもらえるなら私の精神的負担も軽減できてありがたいです。話すうちに気持ちも落ち着いてきましたし、自分がどういう状況にあるのか全く分からない不安もあったのですが、相談させていただいて客観的に自分の状況をとらえられるようになったと思います。


森弁護士:そうですね。今回は私が味方となりますので、山下さんの後悔が残らないようお手伝いさせていただきます。


山下:心強いです。どうぞよろしくお願いします。