第5話 「お父さん、オレ尽くしてきたよ!」

相談者:町田さん 兄弟との相続に悩む公務員(以下、「町田」という。)
解答者:森弁護士 まだまだフレッシュな新人弁護士

町田
:父が亡くなり、遺言もなかったので、兄弟とだいたい9,000万ほどある遺産の分け方について話し合っているが、決着がつかないのです。兄弟は私を含めて3人おり、母は既に亡くなっています。
 ほかの兄弟は平等に分割しようって言ってきているのです。でも正直なところ、老年の父を支えてきたのは私たち長男夫婦なものですから、他の兄弟より多く相続できるのではないかと思っているのですよ。

森弁護士
:相続財産について協議をされている段階なのですね。
 早速ですが、町田さんがおっしゃった、「お父様を支えてこられた分、多く相続できるかどうか」は、町田さんに寄与分が認められるかどうかが問題となります。

 寄与分とは、被相続人つまり、財産を相続させるお父様の遺産を増やした、あるいは、減らさないように貢献した相続人がいた場合には、その相続人にその相続分以上の財産を取得させようとする制度です。寄与分はそのような制度ですから、寄与分を維持、あるいは、増加させた関係性が必要です。
町田さんがお父様を支えてこられたことが寄与分にあたるとすれば、結果的に、遺産の中から、他のご兄弟より多く財産をもらうことができます。

町田
:その関係性がないときには、寄与分が認められないのですか?

森弁護士
:はい、そうなのです。

町田
:なるほど。それで、兄弟との話し合いは今後どうやって進めていけばいいのでしょう?

森弁護士
:寄与分を定める手続きは3つありまして、共同相続人、すなわち町田さんのご兄弟とで、どのように遺産を分配するか協議をする方法です。
仮に協議が調わない場合には、協議に代わる処分を家庭裁判所に求めることが出来ます。これが審判の請求です。通常はこれに先立って調停が試みられます。

町田
:今は協議が決まらない状況だから、調停をすることになるのですね。それでその寄与分はどう認められるのですか?

森弁護士
:寄与分の内容は、療養介護その他の方法により相続人の「財産の維持又は増加」について特別の寄与をした者に認められます。
 この特別の寄与とは、親子として扶養する範囲を超えて均等な法定相続分遺産分割することが不公平と考えられる程度の寄与を言います。
 たとえば、お父様が認知症だったとのことですが、町田さんがお父様の療養看護をしたことや、お父様に代わって財産の管理をしたといったことはありますか?

町田
:ありますとも。
(1)父が死ぬ4年前から認知症の症状が重くなり、食事の世話や排泄の介助をし続けたのは私たち長男夫婦です。
(2)それに私は実家を購入する際にも一定額をだしていますし、家の修繕費をあわせれば3,000万円近く出しているのです。
(3)なおかつ、私は公務員の傍ら、父の農業を手伝っていました。
これだけやっているのだから、僕の寄与分は相当大きいと思いませんか?

森弁護士:寄与分がどれほどになるのか、これから見ていきましょう。
まず寄与分算定の方法ですが、療養看護については、現在、一般的には寄与分に相当する金額を定める方法によって算定されています。

町田
:そうすると、私のした介護はどうやって金銭に換算されるのでしょうか?

森弁護士
:はい。順番にお話ししていきます。
まず、(1)町田さんが介護をなさった「療養看護」について、具体的には、
 ①療養看護の必要性
 ア 療養看護を必要とする病状であること
  イ 近親者による療養看護を必要としている

  ②特別の貢献(財産を相続される者との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献
  ③無報酬又はこれに近い状態で相当期間継続して行われた
 ④専従性(療養看護の内容が片手間なものではなく、かなりの負担を要するものである)
ということが備わっている場合に特別の寄与に当たると言え、寄与分が認められます。
 つまり、単に同居し、家事の援助を行っただけでは、特別の寄与とは言えないのです。

町田
:そうなのですね。私の場合は、父が亡くなる4年前から、認知症が重くなり、最初の3年ほどは、自宅で排泄などの介助をしました。そのうち父が要介護認定2の認定を受けたので、デイサービスを利用し、私は毎日その送迎をしていました。
ぁ最期の1年は、要介護認定3を受けましたので、兄弟と相談して父を病院に入院させ、そこではじめて兄弟と当番制で介護に当たりました。

森弁護士
:それは大変でしたね。
 療養看護の判断の対象は、デイサービスを利用した以外で、自宅で町田さんご自身がお父様を療養看護なさったことですが、総合的にみて、町田さんには特別な寄与があると思われます。
 以上のことは、大阪高等裁判所平成19年12月6日の審判を参考にしています。

町田
:よかった...。いやまぁ、私に特別の寄与はあるでしょうけど、実際は何がどう変わるのですか?

森弁護士
:町田さんが実際、療養看護した分が、相続財産から払われることになります。
 というのも、お父様が第三者に介護を頼んだ場合は本来お金がかかるところ、息子である町田さんが実際に療養介護を引き受けることで、お父様はそのお金を払わずにすんでいます。
 ですから、このお父様が支払いを免れた分が、相続財産として町田さんに分配されるのです。
 より詳細に言えば、「第三者の日当額×療養介護日数×裁量的割合」により、町田さんの貢献分、すなわち寄与分に相当する金額を算定することになります。

町田
:その裁量的割合っていうのはなんですか?

森弁護士
:これは、療養看護をする第三者は、基本的に有資格者であり、その者へ頼んだ場合の報酬と、扶養義務を負うご家族への報酬は、おのずと差がでるものですから、裁判所が裁量的に、その差額を調整するための割合のことです。

町田
:へぇ、なるほど。それじゃ介護をしていた私に代わって、業者が介護したらかかる日当額に、介護した日数をかけて、あとは裁判所が判断する割合で多少は減るかもしれませんが、とにかく僕の寄与分として返ってくるのですね。

森弁護士
:その通りです。
 残りのご実家の取得や維持管理にある程度お金を出したとのことですが。

町田
:そうそう、(2)修理費なんかは父が亡くなった後に出したのですが、家のことですし含まれますよね?

森弁護士
:いいえ、含まれません。たとえお父様の家の修繕だったとしても、寄与分の算定は、被相続人、つまりお父様の生前に貢献した分を対象としますので、寄与分の算定には含まれないのです。

町田
:あぁそう言われればそうですよね。
あ、じゃぁ(3)農業を手伝った分はどうです?

森弁護士
:そうですね、町田さんは公務員の傍ら農業をされていたとのことなので、専業で農業を手伝われた場合に比べれば低く見積もられる可能性があります。
 これらの寄与分がどのように計算されるかはまだわかりませんが、さらに詳細な想定をするために、具体的な資料をお持ち下さい。

町田
:わかりました。それで寄与分が決まったとしたら、兄弟とは実際どうやって相続することになりますか?

森弁護士
:具体的な相続分の算定方法の一例ですね。下の計算式を参考にご覧下さい。

2015.8.19_寄与分(画像1)572-196.jpg

まず、町田さんの寄与分が認められると、お父様の遺産は、お父様ご自身と町田さんが貢献した財産が合わさったものといえます。
 ①そこで、公平に遺産を分配するための出発点として、お父様だけで築かれた遺産総額を出します。つまり、町田さんの貢献分を差し引いた遺産ですね。これをみなし相続財産と言います。
 ②次に、このみなし相続財産に、ご兄弟の法定相続分の割合をかけあわせることで、ご兄弟それぞれが均等に遺産を相続することになります。
 ③最後に、他のご兄弟と異なり、遺産を築くために貢献した分を町田さんに返します。つまり、町田さんの貢献した寄与分を先程だした兄弟としての相続分上乗せします。
 こうすることで、町田さんはお父様の財産に貢献した分、他のご兄弟より多く遺産をもらえることになるので、他のご兄弟と公平が図られた相続をすることができます。

町田
:よかった。いやまぁまさかここまで細かく計算するとは思いませんでした。相談してみるものですね。

森弁護士
:はい、寄与分の算定のためには、その算定の基礎となる証拠を集める必要があります。それらはお父様が生前の、すなわち過去の資料を集めることになりますから、できるだけ早く集めていただくほうが望ましいでしょう。
 もっとも、実際に何を集めればいいか予測を立てるためにも、やはり弁護士にご相談なさったほうが良いと思われます。

(こうして町田さんとの打ち合わせは続く。がんばれ森先生!

byもみじ事務員・M嬢)