第3話 「離婚したのに、住宅ローンを払えって?!」

※この事例はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

相談者:佐藤さん(以下、「佐藤」という。)ちゃっかり者の悩める主婦 

解答者:森弁護士 フレッシュな若手弁護士 


 佐藤:私は、離婚した前夫と財産分与でもめています。

結婚していたときに買った家は売るつもりなのですが、ローンを払いきれないそうで、夫からその残りのローンを半分払えと迫られているのです。突然訴えられたりしそうで怖いです。

 そもそも財産分与って、どうやって決まるのですか?


 森弁護士:財産分与の手続きの方法は、3つありまして、当事者間、つまり佐藤さんと元旦那様とで、どのように財産を分配するか協議をする方法です。

 仮に協議が調わない場合には、協議に代わる処分を家庭裁判所に求めることが出来ます。これが審判の請求です。通常はこれに先立って調停が試みられます。

 もっとも、財産分与の請求権は、離婚時から2年間という期間制限があるので、そこはご注意下さいね。


 佐藤:話し合いなんてしていたら2年なんてあっという間ですね。その裁判所での処分って具体的に何をするのですか。


 森弁護士:家庭裁判所が、当事者双方、すなわち佐藤さん元ご夫婦が、婚姻生活の中で、その協力によって得た財産の額等一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることになります。


佐藤:協力によって得た財産といっても、そもそも家は前夫名義なのだから、私は関係ないですよね?


 森弁護士:基本的に、財産の名義のいかんは、財産分与の判断に影響しないと考えて良いです。財産分与は、結婚生活で作られた財産をいかに分けるかが問題なので、名義がどちらにあっても財産分与の対象になる場合はあります。


 佐藤:そうなの!?一切の事情って一体何を考慮しているのですか?


 森弁護士:財産分与で考慮される一切の事情の中身は、財産分与が行われる理由に深く関係します。財産分与の核心は、「結婚生活でできた財産を清算」であって、「離婚後に扶養をする」、「離婚時に被った損害を回復する慰謝料を求める」ことが補助的に考慮されます。

 佐藤さんの場合、離婚の際に、慰謝料であるとか、養育費等の扶養を求めるといったお話はありましたか?


 佐藤:いいえ、そういった話はありませんでした。双方納得の上で離婚を決めたことなのです。子供もおらず、共働きなので、慰謝料やら何やらというお話はありませんでした。


 森弁護士:それでは佐藤さんの財産分与は、「一切の事情」の中で、ご夫婦のときに作られた財産をいかに清算するかを考慮することになります。

  そこで、ご夫婦の時に作られた財産の内容にお教えください。先程おっしゃった住宅は、どのような内容で購入されたのでしょうか?


 佐藤:2,000万円の中古住宅を住宅ローンで購入し、支払いも夫がしています。前夫が言うには、残っているローンが1,500万円なのに、家の価値はもう1,000万円ぐらいしかないそうです。


 森弁護士:オーバーローン、つまり、こういう状態ですね。


オーバーローン

     住宅ローンの残額が、住宅の時価を上回ること。


オートシェイプ: 住宅ローン
    >

 


 


       残り -1,500万円          時価 1,000万円


⇒家を売ったとしても、ローンを払いきれず借金(-500万円)が残る。


 佐藤:そうなのです。


森弁護士:他に結婚生活で作られた財産、例えば預貯金などはありますか?


佐藤:いいえ、ありません。前夫とは、最後までお金のことでもめて貯金を作る余裕はなかったのです。


森弁護士:オーバーローンの状態で、預貯金もない場合ですから、佐藤さん元ご夫婦の財産は、借金のみということですね。

  住宅をご購入の際に、佐藤さんが連帯保証するとか、結婚前に貯めた自分の財産から支払いを助けたということはありましたか?


佐藤:いいえ。連帯保証人にもなっていませんし、ローンの頭金は、結婚資金の一部から出したので、特に自分の貯金から払うということもありませんでした。

  こうして考えると、何にもしていない私は借金を負担するということになるのでしょうか?


森弁護士:結論から言うと、佐藤さんがその借金を支払う義務はありません。


佐藤:そうなのですか!?でも、前夫からは,家は夫婦の生活のために買ったのだから,そのための住宅ローンも半分にすべきだろと言われたのです。


森弁護士:たしかに、財産分与は、夫婦共同生活で協力し合って作られた財産をお金に換算して、そこから借金といった負債をさしひいて、なおプラスの財産が残る場合にはそれを半分ずつ分け合うという方法がとられます。

  しかし、佐藤さんの場合には,夫婦の共同生活の中で他に預貯金といったプラスの財産はなく、オーバーローンという借金、つまりマイナスの財産だけが残っている場合です。

  このような場合には、基本的に前夫が佐藤さんに対して500万円を負担しろと請求できないと考えておいていいと思います。


佐藤:考えておいていいって、それって先生の見解なのでしょ。裁判所も認めてくれるのですか?


森弁護士:例えば、平成24年の裁判例でもオーバーローンの不動産は財産分与の対象にならないとの結論が維持されています。


佐藤:どうして私は借金を負わなくてもよくなるのでしょうか。


森弁護士:誤解をおそれず言うと,プラスの財産からマイナスの財産を引いて,マイナスしか残らない場合,そもそも,夫婦で「分」け「与」えあうべき「財産」がないため,そのマイナス分をわけあうことはできないと説明することができます。


佐藤:なるほど,それならわかります。

よかった。それでは夫の言う通り、私は払わなくてもいいのですね。


 森弁護士:はい。仮に裁判になったとしても、前夫から佐藤さんへの請求が認められる可能性は低いでしょう。

  しかし、注意していただきたいのは、財産分与の手続きにある、協議や調停の段階で、佐藤さんが旦那さんとオーバーローンの借金を負担すると合意してはいけないということです。


佐藤:え?どういうことですか。


森弁護士協議や調停の段階で、たとえばご夫婦で借金を負担しあうと合意すれば、その合意の通り佐藤さんは500万円の借金を背負うことになるのです。


佐藤:そうなのですね。わかりました。前夫のいいなりになるところでした。

心して協議にかかっていこうと思います。ありがとうございました。


森弁護士:ありがとうございました。

ご夫婦の財産が、財産分与の対象になるのかどうか、まずは弁護士にご相談なさるのがよいと思われます。


佐藤:先生、だ、だれとお話しているのですか?


 森弁護士:おっと、失礼。ホームページ画面の向こうの方とお話していました。


 佐藤:あら、出演料ってもらえます?


 森弁護士:・・・・・。