第2話 「とにかく別れたいのです!」

 

相談者:田中さん せっかちな悩めるサラリーマン

解答者:森弁護士 まだまだフレッシュな若獅子弁護士

 

 

田中:私には結婚して9年たつ妻がいます。しかし、もう今では別々に暮らしており、夫婦として互いを思いやる気持ちはこれっぽっちも、一ミリも残っていません。先生、私はこの妻ととにかく離婚したいのです。

 

森弁護士:田中さんは、どうして離婚したいと考えるようになったのですか?

 

田中:私には、他に待ってくれている女性甲さんがおり、その女性と早く結婚したいと思っているのです。

私が、妻に離婚したいと話してからは、妻の態度は目にみえて冷淡になり、私は耐え切れなくなって家を出ました。別居してもう2年4か月経ちます。

 

森弁護士:奥様は、田中さんの離婚の申し出に対して、どのようにお答えになったのですか?

 

田中:妻は、私と一緒に暮らしたいとは思っていません。しかし、妻は病気を患っているので、就職をして収入を得ることが難しく、将来の金銭的な不安と子供のために別れたくないと答えていました。

 

森弁護士:お子さんがいらっしゃるのですね。おいくつでしょう?

 

田中7歳になるかわいい長男が1人います。別居してからは全く会えていませんが。

 

森弁護士:それでは、現在に至るまでの事情を整理させてください。田中さんが奥様に離婚をしてほしいとおっしゃった時には、もう甲さんと性関係をお持ちだったのでしょうか?

 

田中:そうです。

 

森弁護士:つまり、ご夫婦の結婚生活が破たんするまでに、まず田中さんが甲さんと交際に至り、そのことが原因で、ご夫婦の結婚生活が冷え込んだのですね。

 

田中:そうですが、でもそれだけじゃありません。妻はひどい潔癖症で、私はそんな妻との生活にほとほと疲れてしまったのです。先生、妻とはこうなってしまって残念ではありますが、すぐに離婚できますよね?

 

 

森弁護士:結論から言うと、今の段階で裁判になった場合、田中さんからの離婚請求は、認められる可能性が低い状態です。

まず、田中さんの場合に認められる離婚事由は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があることです。このような事由が認められるのは、たとえば、性格の不一致で客観的にも結婚生活が破たんしており、将来的にも修復が困難と認められる場合があげられます。

 

田中:先生、わたしたち夫婦の結婚生活はとっくの昔に破たんしているのです。離婚できるのではないですか? 

 

森弁護士:たしかに、現在の田中さんご夫婦の結婚生活は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるといえるほど、客観的に破たんしているといえるでしょう。

しかし、ここでの問題は、この事由に基づく離婚請求をするのが、あなただということです。つまり、裁判所からは、結婚しているときに、あなたが不貞行為に及んでいるため、田中さんあなたに結婚生活を破たんさせた主な責任があると判断されてしまうのです。

法律上は、婚姻中に不貞行為をした者を「有責配偶者」といい、田中さんはこの有責配偶者にあたることになります。

 ですから、有責配偶者からの離婚の請求は、信義に反すると言うことになり、認められないのです。

 

田中:ええっ!有責配偶者と判断された私からだと、離婚の請求をすることは全くできなくなるのでしょうか?

 

森弁護士:落ち着いてください。有責配偶者からの離婚請求が認められる場合はあります。もっとも、この有責配偶者からの離婚請求が許されるかは、先ほどから申し上げている信義誠実の原則に照らして許されるかどうかによって判断されるのです。

 

田中:あぁ、それなら信義誠実ならあるでしょう。私は出ていったあとも、妻子が生活に不自由しないようにと、毎月欠かさず生活費を送金しています。それだけじゃありません。自分が住んでもいない家の家賃や光熱費だって払っています。

それに、妻の度が過ぎる潔癖症にも、結婚生活を破たんさせた責任の一端があるのに、私はこんなにも誠実な対応をしているのです。

 

森弁護士:確かに、田中さんの責任の態様や程度も信義誠実の原則に反しているか判断する要素になります。

 しかし、それだけではなく、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか、②ご夫婦の間にいる未成熟子がいるか、③奥様が、離婚により、精神的・経済的に極めて過酷な状況に置かれるか等も総合的に考慮されなければなりません。

田中さんの場合、

① 同居期間は約7年であり、別居期間は約2年であることから、双方の対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと、

② 7歳という未成熟子がいる事、

③ 奥様は、ご病気により収入を得ることが難しいなどのことから、離婚により精神的・経済的に過酷な状況に置かれることが想定されます。

 

 したがって、田中さんからの離婚請求が認められるのは難しい状態ですよ。

 

田中:いやいや、妻とはこれから先、一緒に住むこともないのですよ。結婚している意味さえないのに別れられないなんて、納得できません。

 

森弁護士:田中さん、ここまでのお話は、現状、今の状態で裁判になった場合のお話です。別居期間があと数年続くことで、田中さんからの離婚の請求が認められることもありえます。

 

田中:私は元来、短気でして、待つのは嫌いなのです。あと数年もこのままなんて!!耐えられません!

 

森弁護士:田中さん、落ち着いてください。

 今までお話したことは、最終的に離婚裁判になってしまった場合の裁判官が判断したときの結論ということです。

 ただ、現実の離婚の現場では、裁判離婚という結末にいたることは、少ないということも、これもまた事実です。

 離婚という決着をつけるステージというのは、実は、主に3つありまして、(1)協議(2)調停(3)裁判というステージがあるのです。

 そして、離婚が成立するうち、90%ほどが協議離婚、裁判の前には必ず行われる調停で約8~9%です。裁判離婚は、全体の1%ほどしかありません。

もちろん、相手があるわけですから、必ず実現できるというものではありません。しかし、奥様に誠意ある対応を粘り強くすることで、離婚という結果を勝ち取ることだって不可能ではないのです。

一度は真剣に田中さんを愛した方なのでしょうから、奥様だって、田中さんの想いを受け止めて下さるかもしれませんよ。

 

田中:先生はお若いのに深いことを仰るのですね。感心しました。

 

森弁護士:いえいえ、私なんかまだまだ駆け出しですから。

 そのような私でも、「今できることが何か」を依頼者の方と一緒にしっかりと考えていきたいのです。

まずは奥様から離婚の同意を得るにはどうすればいいか、方法を考えていきましょう。

 

田中:そうですね...身勝手かもしれませんが、私、妻ととにかく別れたいのです。先生にだけは、その熱意をわかって欲しくて...

 

森弁護士:熱意ですか...それは、十分に伝わりましたよ。

 田中さん、急がば回れですよ。一緒に悩み、そして、あなたのあるべき人生を切り開いていきましょう。