第1話 「99.9%でもダメなの!?」

 

相談者:山本さん 恋多き悩める主婦

解答者:森弁護士 フレッシュな新人弁護士。

 

山本:私には、3歳になるかわいい子供、丙ちゃんがいます。丙ちゃんは、当時結婚していた甲との子供ではなく、ほかに恋してしまった仕事もバリバリする男性、田中さんとの子供なのです。

だから、戸籍を届ける時には、「田中の子」として届出ました。しかし、お役所からは、当時結婚していた夫、「甲の子」としてしか受理できないと言われてしまい、しぶしぶそのまま届け出たのです。

ちなみに、DNA検査でも、99.999998%の確率で、「前夫甲と子供」に血のつながりはないと結果が出ています。

先生、丙ちゃんは甲の子供ではありえないのだから、「甲と子供丙ちゃん」の戸籍はもちろん切り離せますよね?

 

森弁護士:山本さん、残念ながら前夫甲さんと丙ちゃんの戸籍を切り離すことはできません。

まず、山本さんと前夫甲さんが結婚して200日以降に丙ちゃんが生まれた場合、形式的には甲の嫡出子として推定されるのですが、この場合、嫡出否認の訴えという方法で争うことができます。しかし、この方法には期間制限があります。

 

山本:そんな...期間制限って、いつまでですか?

 

森弁護士:嫡出否認の訴えは、甲さんが丙ちゃんの出生を知った時から1年です。したがって、丙ちゃんが生まれてから3年以上経つ現在では、この訴えをすることはできません。

 

山本:でも、丙ちゃんは、明らかに甲ではなく「田中さんの子供」です!それなのに裁判所の都合かなにか知りませんが、争えないのはひどいじゃないですか。

 

森弁護士:今回は、「推定される子」場合ではなく、「推定が及ばない子」として、いかに親子関係の推定を排除できるかどうかが問題となります。

要するに、外形上明らかに甲の子ではないといえた場合には、この推定を排除することもできるのです。

 

山本:それなら先生、DNA検査でも99.9%の確率で、甲が丙ちゃんの父親じゃないと明らかになっているのだから、当然その推定も排除できるのでしょ?

 

森弁護士:この推定が排除できる場合というのは、夫婦生活を全くすることができない場合に限られているのです。

 

山本:安心してください。田中さんと交際してからは、ここ数年、元夫の甲とは寝室も別ですし、甲と手さえ触れないようにしていたくらいですから。

先生の言う夫婦生活は全くいたしておりません。

 

森弁護士:山本さん、落ち着いてください。推定が排除できる場合とは、たとえば、夫が刑務所に入っている場合や、長期間の海外主張中である場合など、外観上明らかに夫婦生活を営むことが出来ない場合に限られるのです。

 山本さんの場合には、同居されていますよね。したがって、推定を排除するほど、外形上明らかなものとはいえないのです。

 

山本:そんな...DNA検査もしたのに...。99.9%でもダメなの!?

 

森弁護士:裁判例では、今回と同様の事案において、たとえDNA検査で親子関係にないとの結果がでていても、お二人の婚姻中に子供が生まれたのであれば、この推定が及ぶとされています。

したがって、今回もこの推定を排除することは難しいと思われます。

 

山本:それで結局、嫡出否認の訴えだと、争えないのですよね?

でも、DNA検査で血縁関係が否定されているのに、親子関係を戸籍に反映させるのが普通なんじゃないですか?

私は、前夫甲から戸籍を切り離して、父親の部分を本当の父親の田中さんに変えたいのです。先生でもなんとかならないのですか。

 

森弁護士:山本さん、これまでしたお話は、あくまで訴訟になった時のお話です。

その前に行われる「調停」であれば、相手方「甲さん」が丙ちゃんと親子関係にない同意をすれば、甲さんと丙ちゃんの戸籍を切断することができるのです。

 

山本:調停の中で、甲の同意があればできるのですか?

 

森弁護士:はい、できます。

 

山本:わざわざ裁判所まで行って調停するのですか。同意さえとれればいいのだから、私たちの協議でもいいのではないですか?

 

森弁護士:いいえ。協議ではなく、調停での同意が必要となります。

相手方である前夫甲さんが、丙ちゃんと親子関係にないことに同意し、家庭裁判所によって、必要な調査等を行って、その合意の相当性が認められれば、山本さんの望みを叶えることはできるのです。

つまりですね、この調査においてDNA検査の結果が活かされると思われます。

 

山本:そうなのですね。森先生、とっても素敵ですね。今度、お食事でもどうで...

 

森弁護士:ゴホッご、お食事は、ご勘弁ください。今日はご相談いただきありがとうございました。