ワカリヤスイ判例・法律情報

第9話 「『そのうち...』ではダメ!遺産分割」

相談者:小林 一郎 遺産分割問題に悩む、小林家の慌て者の長男
解答者:森弁護士 精力的に業務をこなす来年で四年目弁護士

、母、長女、長男、次女の五人家族、小林家。

 

頑固なお父さん、心配性なお母さん、少しケチな長女、慌て者の長男20歳、高校生活を謳歌する次女の小林家は、ごくごく普通の一般家庭として、多少のケンカはあれど、家族仲良く暮らしていました。

 


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しかし!ある日突然、交通事故でお父さんが亡くなってしまったのです。お父さんは遺言書を作っておらず、お父さん名義の家、車、預金、株式が遺産として残りました。


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さて、これらお父さんの遺した財産「遺産」を、遺された家族で、どう分けましょう?誰のものにしましょう?というのを決めるのが「遺産分割」です。


● 「遺産分割」はどうすれば成立する??
あまり知られていませんが、「遺産分割」は紙に書かず、言葉の約束だけでも、相続人全員の合意さえあれば成立します。しかし、口約束は後々問題となることが多いですから「遺産分割協議書」を作り、紙に残す方が安全です。さらに、せっかく紙に残しても、内容に不備があっては意味がなくなってしまいます。

小林家でも、早速「遺産分割」をすることとなりました。

しかし、当初、すんなりとまとまると思われた話し合いは、平行線をたどるまま...。次第に家族の雰囲気もギスギスしたものに...。

小林家の長男・小林一郎は、先の見えない言い争いに活路を見出すため、もみじ総合法律事務所・森弁護士の元へ相談にやってきました。


一郎:うちは絶対大丈夫、相続でもめることなんてないって思っていたんですけど...話し合いが全然進まなくて...

 

森弁護士:そう思っている方は多いのですが、「相続」「遺産分割」というのはデリケートな問題ですからね。どんなに仲のいい家族でも、揉め事に発展してしまうケースは多いんですよ。

 

一郎:そうなんです!姉さんが突然、車、株式、預金は全部自分がもらうって言い出して!!

 

森弁護士:(遺産内容を確認しつつ)相続財産の大半をお姉さんが相続したい...ということですね。お姉さんがなぜそんなことを言い出したのか、一郎さんはわかっていますか?

 

一郎:うーん、何か譲れない思いがあるみたいなんですが、正直、僕にはよくわからないんです...。難しい言葉を使われるし、向こうも感情的になっているので、言ってることがコロコロ変わるんです!

 

森弁護士:お姉さんがどうしてそのような主張をされるのか、確認する必要がありますね。

 

一郎:なるほど...。でも、最近じゃあ顔を合わせれば言い争いになって、話し合いどころじゃないんです。もう「遺産分割」はそのうち、向こうが落ち着いた頃でいいのかなと思っていて...。

 

森弁護士:距離の近い関係であればあるほど、辛い状況ですよね。しかし、「そのうち」と話し合いを持つタイミングを逃して、「遺産分割」をしないまま時が過ぎると、いざ、財産を活用するため、「遺産分割」をしようと思ったら、代替わり等で相続人の人数がふくれあがって、物理的に「遺産分割」が難しくなるケースもあります。

 
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一郎:わー!こんな状態になってしまったら、話し合いどころではないなあ...。でも、「そのうち...」なんて言っていたら、こうなることもありうる、いうことですよね。

 

森弁護士:そうなんです。さらに、短期的な問題として、お父様の葬儀費用や相続税の支払いを、相続した預金から捻出されようと思っても、遺産分割を経なければ金融機関は払い戻しに応じません

 

一郎:!!!それは困る!!!

 

森弁護士:従来の判例では、「預貯金は相続開始によって当然に分割されるため、遺産分割の対象とならない」とされ、自己の法定相続分の払い戻しの交渉ができたり、葬儀費用分等の払い戻しに柔軟な対応をしてくれる金融機関もありました。しかし、近時に最高裁の判例に変更があり、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当」(最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定)と判断されました。

 

一郎:あー、ますますどうしたらいいんだろう~!!

 

森弁護士:一郎さん、落ち着いてください。

遺産分割には3つのステップがあります。

   遺産分割協議(相続人同士で話し合い、財産の分け方を決める)

   遺産分割調停(家庭裁判所において、調停委員が橋渡しとなり、協議を進めてくれる)

   遺産分割審判(相続人の合意がまとまらない場合、家庭裁判所の裁判官が、審判という決定で、強制的に財産の分割の方法を決める)

 

 小林家の皆さんは①の段階です。実はこの段階から弁護士が間に入り、協議が円滑に進むようサポートすることができます。

 

一郎:そうなんですかっ!弁護士さんにお願いできるのは裁判だけなのかと思っていました。具体的には?どんなことをしてもらえるんです??

 

森弁護士:依頼者に代わって相手方と交渉することができます。一郎さんの場合、揉めている相手方・お姉さんと直接話し合いをしなくてもよくなります。お姉さんの主張が、寄与分や特別受益の持ち戻し等、法的にどのような主張にあたるのかも弁護士が適切にアドバイスすることになります。

 

一郎:そうそう、その寄与分?特別受益??なんだか姉さんが口にしていたような...、どういうものなんですか?

 

森弁護士:はい。【寄与分】とは、簡単に言えば、お父様(被相続人)の財産を増やす事に貢献した人に配慮して、財産を多く与えようという制度。

【特別受益】とは、遺贈、生計の資本としての生前の贈与など、被相続人から特別に受けた利益のことを指します。他の相続人との公平を期するため、受けた利益分を相続する財産から差し引こう、というのが【特別受益の持ち戻し】ですね。

 

一郎:そういう意味だったんですね...説明を聞いてようやくわかりました。


● 勝手に引き出した預金は特別受益??
【特別受益】とは、あくまで被相続人が、その意思に基づいて交付した財産をいいます。例えば重篤な認知症にかかっているおばあさんの預金を相続人が勝手に引き出していても、特別受益にはあたらないことが多いでしょう。(遺産分割調停の場等で、勝手に引き出した預金を、特別受益とする合意を相続人全員ですることは可能です)


森弁護士:あと、小林さんご一家の場合、遺産分割協議をする上で、二つ注意する点があります。まず、お父様は交通事故でお亡くなりになられていますので、事故に対するお父様自身の【損害賠償請求権】及び【慰謝料請求権】も相続財産となる点。これらの権利は法定の期間内に権利を行使しないと時効で消滅してしまうということもあるということです。

もう一つは、高校生、未成年である妹さんの利益を保護するために、一定の場合を除いて、妹さんの特別な代理人を選んで、遺産分割手続きを行わなくてはいけない点。この特別代理人を選任するための家庭裁判所への申立も、弁護士が代理して手続きをすることも可能なのです。

 

一郎:至れり尽くせりですね!

 

森弁護士:調停や審判段階へ進めば、裁判所に書類を提出したり、平日の日中、裁判所に出向く必要も出てきます。しかし、そちらも弁護士が書類をつくったり、一緒に調停に出席したり、代わりに出席したりもできます。

 

一郎:どうしたら前に進めるのかわからなくて、いつも以上にあせりましたが、ほっとしました!森先生、今後ともよろしくお願いしますね!!

 

森弁護士:あたた...一郎さんの思いは十二分に伝わりましたよ。一緒に納得のいく遺産分割を目指しましょう!


第8話 「我が子思うがゆえに・・・」

相談者:山村 太郎 子ども思いなサラリーマン(以下、「山村」という。)

解答者:森弁護士 光り輝く新人弁護士

 

山村:どうも、はじめまして、山村と言います。よろしくお願いします。

 

森弁護士:弁護士の森です。よろしく、お願いします。

  今日のご相談は、お子さんに関することと聞いているのですが。

 

山村:はい、そうなんです。

実は、去年の4月に妻が子どもたちを連れて、今も別居中なんですが、妻が子どもに会わせてくれないんです。

 

森弁護士:お子さんとはどれくらい会っていないんですか?

 

山村:別居直後は、月1回程度のペースで子どもたちと会うことが出来たのですが、半年ほど前から急に会えなくなってしまったんです。

 

森弁護士:なぜ、会えなくなってしまったんですか?

 

山村:なぜって、わかりませんよ。妻と連絡を取り合って、子どもと会う日を決めるんですが、決まって当日になって、子どもが熱を出したとか、妻のパートが急に入ったとか、理由をつけて延期になるんです。

  まあ、最初はこういうことが続くこともあるのかな、と信じていたんですが、さすがに、これが4回、5回続いたので、怪しいと思って。

  先月なんか、「待合せ場所まで行く電車賃が無い」とか...彼女も相当のキャリアウーマンで収入は私よりあるのですよ...もうさすがに我慢の限界です。僕にとって、子どもは生き甲斐そのものなんです。僕も親なのに、妻が子どもを独り占めして、会えないなんておかしいじゃないですか!!!

 

森弁護士:まあまあ、少し落ち着いてください。山村さんが、お子さんに会いたい気持ちはよく分かりました。確かに、電車賃がない、は酷いですね(苦笑)。

 

山村:笑いごとじゃないですよ、先生。妻には、子どもによかれと思い生活を切り詰めてお金も送っているんです。

  どうしても会いたいので、学校や幼稚園の終わりに、子どもたちに会い行ってはだめなんですか。

 

森弁護士:気を付けてください。離婚が成立するまでは、山村さんも親権者であることに変わりはありません。ですが、妻・子どもと別居し、離婚係争中の夫が、自身で監護することを目的に、保育園から帰宅途中の当時2歳の子どもを、祖母が目を離したすきに、抱きかかえ、あらかじめ発進準備をしていた自動車に乗せ、制止する祖母を振り切って連れ去った、という事案で誘拐罪が成立したケースもあります(最高裁判所平成17年12月6日第二小法廷決定)。

  別居中の親が、子どもに会いに行ったからといって直ぐに誘拐罪になるわけではありませんが、同居している親を刺激して、余計に子どもとの面会を拒否するようになるかもしれません。

  

山村:えぇ!僕は、あの子たちの親なんですよ!それなのに誘拐だなんてたまったもんじゃない。こんな調子で、実際に離婚してしまったら、もう二度と子どもたちに会えなくなるのではと思って心配で。どうにかなりませんか?

 

森弁護士:家庭裁判所へ「面会交流の調停」を申立てて、裁判所を使って奥さんと話し合いをしましょう。

 

山村:どういった事を話し合うのでしょうか?

 

森弁護士:簡単に言えば、子どもと会うための基本となるルールについてです。

 

山村:もし、相手との意見が合わずに、合意できなかったらどうなるんですか?

 

森弁護士:その場合には、調停自体は不成立となりますが、「審判」と言って、裁判所が子どもに適した面会交流の内容を判断して決めます。

  相手方は、裁判所がした審判に不服があれば、「抗告」といって上の裁判所で争うことができますが、裁判が確定すれば、基本、相手方は裁判所で決まった内容に従わなければなりません。

 

山村:仮に、裁判が確定しても、妻が従わない場合どうなるのですか?

 

森弁護士:面会交流を拒否する親に対して、それを促す手段はいくつかあります。

ですが、理解して頂きたいことがあります。面会交流は、調停・審判が終了した後に、それに従って、反復継続して実施されていくものです。その実現は、子どもと同居している親との協力・信頼関係の下に、実現できるものだということです。

  ですが、夫婦双方が敵対的な関係になってしまうと、たとえ、面会交流が実現しても、子どもが板挟みになってしまいます。そのような状況が続けば、子どもも面会交流に対して拒否反応を示してしまう可能性があります。そのようにならないためにも、調停でよく話し合うことが大事なんです。

 

山村:わかりました。

 

森弁護士:まずは、家庭裁判所からの「履行勧告」です。これは、調停や審判で決定した内容について、約束違反があった場合には、家庭裁判所から相手方に対して約束を守るように忠告してもらうことです。

 

山村:妻が裁判所からの忠告を無視したら何かペナルティはあるんですか?

 

森弁護士:残念ながら、この履行勧告には、強制力がありません。なので、たとえ無視されても、何のペナルティもないんです。手軽な方法ですが、効果がでないこともあります。ですからこれも広い意味では相手方が自らの意思で審判に従うということに含められると言えます。

  

山村:もっと、実効的といいますか...

 

森弁護士:次は、相手方が故意的に面会交流を拒否している場合、それによって精神的苦痛を受けたとして、慰謝料を求める損害賠償請求もできます。

ただ、これも単に調停・審判で決められた面会交流の内容があるのに、それに従わないという理由だけで認められるものではありません。

 面会交流では、子どもの心身の成長にとって有益であるか、という「子の福祉」の観点が重視されます。面会拒否による損害賠償が認められるのは、面会交流をしても、子の福祉に反することは何もないのに、同居親の身勝手な理由で面会拒否がされたような限定的な場合に限られるでしょう。

 

山村:面会交流を実現できるような方法はないのですか?

 

森弁護士:最終的な手段と言ってもいいのかもしれませんが、「強制執行の申立」もしうるということです。これは、調停や審判で決定した内容があるにもかかわらず、相手方がそれに従わない場合に、1回につき金○万円を払えという、命令を裁判所に出してもらうものです。

 

山村:そう!それそれ。そういうのを待っていたんです。それやりましょ。

 

森弁護士:落ち着いて、落ち着いて。まずは、調停又は審判で約束事を決めなければいけませんし、それがあっても、裁判所は簡単に強制執行を認めません。

 

山村:なんでですか?決められたことを守るのは常識じゃないですか!

 

森弁護士:その通りです。ですが、最高裁判所は、「面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、この引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないと言える場合」には、「審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。」(最高裁判所平成25年3月28日第一小法廷決定)として、間接強制ができることを示したに過ぎません。

 

山村:だったら、損害賠償や間接強制をする可能性があることを見越して調停・審判をしたいです。

 

森弁護士:山村さんの、子どもたちに会いたいという熱い気持ちはもっともですし、よく分かります。その思いを調停・審判の場でぶつけましょう。

  ただ、先程も説明したように、面会交流は、相手方との協力が必要不可欠です。先程の最高裁決定も面会交流は「監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい」と言っています。

  面会交流を拒否している親に対して、さらに損害賠償や間接強制などの強硬的な手段を取った場合、むしろ、より敵対心を抱き、頑なに面会交流を拒否する可能性もあります。

損害賠償や間接強制を見据えて調停をするのではなく、まずは子どもたちにとっても、山村さんにとっても幸せな面会交流を実現するための調停にしましょう。そのお手伝いを私もさせていただきます。

 

山村:先生、わかりました。子どもの事になると直ぐに周りが見えなくなってしまうんです。よろしくお願いします。


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第7話 「お財布は一つのジレンマ~養育費の減額」

相談者 山下 純

公務員(以下「山下」という。)

解答者 森弁護士 まだまだフレッシュ!若鯉弁護士


山下:はじっはじめまして。相談はこちらでさせていただいてもよろしいですか?


森弁護士:山下さん、はじめまして。どうぞこちらでお話しください。本日は無料相談会をご利用ということで、相談料は結構です。


山下:お財布にやさしく助かります。でも、こういう場所ははじめてなので、身の置き場所がないといいますか、緊張しますね。


森弁護士:そうですよね、みなさんはじめは緊張なさるのですが、相談されるうちにほぐれると思いますので、どうぞゆっくりお話しください。

山下:どうも、すみません。

 そうですね、えっと事の始まりは、私が今から7年前に前妻と離婚したときです。その協議の際、妻から月額20万円の養育費を請求されたのです。お金を払わないと絶対に別れないと言われまして。

 私は年収が500万円なので、月々の給料の半分くらいを妻に持っていかれる額ですが、僕も協議で感情が高ぶっていたものですから、とにかく早く離婚したい一心で、その額のに同意し、双方連れ立って公証役場におもむいて、養育費20万円の公正証書を作成しました。

 今になって、その養育費を支払わないとは言いません。ですが、養育費を減額することができないか相談させていただきたいのです。


森弁護士:養育費の減額をご希望なのですね。

 まず、月額20万円の養育費の額はどうやって決まったのでしょうか。お子さんは何人いらっしゃいますか?


山下前妻との子供10歳になる男の子が一人います。

 私立の中高一貫校に入学したのでお金がかかるのよ、なんていわれたのです。子供のことは妻にまかせっきりだったので、そんなものかとその時は思ったのです。しかし、実際、払い始めて7年、本当に生活が苦しくて・・・・年収も最近50万円ほど少なくなってしまって。


森弁護士:山下さんの養育費は、裁判所などで利用されている養育費の算定基準などと比して高額と言えるでしょう。しかし、高額ということから直ちに養育費の減額を認めることはできません。なぜなら、山下さんは当時も不本意な部分があったとしても、離婚時に養育費を20万円とすることに合意、つまり、約束をしたのですから。しかも、公正証書と言う非常に重みのある書面を作成したことも無視できません。


山下:そうですか。でも減額してほしいと思ったのはそれだけではありません。実は離婚した後、ある女性と再婚したのです。このたびその妻が妊娠したので、子供が産まれると増々、今の生活が苦しくなります・・・妻は妊娠を契機に会社も辞職しましたし。


森弁護士:なるほど、結論から言えば、山下さんが再婚された方との間に実際にお子さんをさずかったりすれば、現在の20万円の養育費の減額が認められる可能性は高いでしょう。


山下:本当ですか?前妻からこの養育費の額でいいのね?って念を押された時にも、離婚協議書に判を押した時にも、「男に二言はない!」って言い放ってしまいました・・・しかも公正証書まで作ってしまっていますし・・・


森弁護士:たしかに、公正証書は確定判決と同一の効力をもちますから、このような重要な書面を作成した意味は無視できません。

 しかし、協議などした後にどのような事情の変化があっても一旦、決められた養育費の額を変更できない、そこまで法律は冷たいものでもないのですよ。

 その事情の変化がどのようなものかで、減額の肯否が振り分けられることになります。


山下:そうしたら、減額が認められる場合とそうでない場合は、どうちがうのでしょうか?


森弁護士:簡単に言いますと、協議などの際に把握していなかった、つまり、予見できなかった事情の発生、消滅などの変化があって、その変化が重要なものであれば、養育費の減額も可能となってくるのです。

 逆に言えば、このような事情の変化でなければ減額は難しいということです。

 例えば、山下さんの年収が500万円から450万円に減少した、などの理由では減額は難しいと思われます。


山下:へー、そうなんですね。やはり、減額の請求は止めるべきなのでしょうか・・・


森弁護士:いいえ、そうとは限りません。今回、山下さんには再婚相手の方との間にお子さんができるとのことですよね。山下さんからすると、前妻との間とのお子さん、再婚相手のお子さんは等しく扶養するべきお子さんなわけです。しかし、お財布は一つしかない。そこに悩ましいジレンマが生じるわけですが、ただ、元々、設定された養育費が高額であったがために、再婚相手との間にできたお子さんに対し扶養する義務の履行がおろそかになってはいけません。

 ここにいたるまでの経緯、そして新たにお子さんを授かったという事後の事情の変化から減額につきこれを裁判所で判断を仰いだ場合に認められる可能性はあるものと思います。


森弁護士:山下さんの前の奥様が再婚されて、再婚相手の旦那さんとお子さんが養子縁組をなさった場合、その旦那さんも基本的に前婚の間に授かった山下さんの実子に対して、扶養義務を負うことになりますから、山下さんの扶養義務が緩和され、結果、減額につながる要素になりうるものでしょうね。


山下:なるほど。ところで、仮に、自分に新たに子どもが授かり、前妻が再婚し、その方が養子縁組をなさった場合には私の養育費は免じられることもあるのですか。


森弁護士:いいえ、免じられるということはないと思いますよ。やはり、一旦、協議し決定された合意がある以上、それを全く反故にすることまでは法も考えていないわけです。変化の程度などを勘案して減じられるにとどまると考えるのが穏当です。


山下:ではまずは、前の奥さんと話し合いして決めようと思ってるのですけど、おそらく応じてはくれないと思うのですよ。


森弁護士:たしかに、いずれの方にとっても大事なお子さんのことにかかわることですから、まずは、話し合いをされることをおすすめします。

 しかし、どうしても双方の話し合いで決着がつかないということであれば、家庭裁判所に調停の申立てなどをするしかありませんね。それでも決着がつかなければ審判と言って裁判所に決めてもらうことになりますが。


山下:話し合いの段階から森先生に間に入ってもらえることは可能ですか?


森弁護士:もちろん、可能です。その場合には前妻の方に私が山下さんにかわってお手紙を出したり、面談でお話させていただいたりすることになろうかと思います。ですから、基本的には山下さんが前妻の方と直接に交渉する必要はなくなります。


山下:そうなんですね。なにしろ、弁護士さんの仕事の内容はよくわからないもので・・・間に入ってもらえるなら私の精神的負担も軽減できてありがたいです。話すうちに気持ちも落ち着いてきましたし、自分がどういう状況にあるのか全く分からない不安もあったのですが、相談させていただいて客観的に自分の状況をとらえられるようになったと思います。


森弁護士:そうですね。今回は私が味方となりますので、山下さんの後悔が残らないようお手伝いさせていただきます。


山下:心強いです。どうぞよろしくお願いします。


第6話 「争続って?」

 

相談者:サスペンスドラマ好きの主婦、岡田さん(以下、「岡田」という。)

解答者:がんばるフレッシュな森弁護士

 

岡田:先週、母が亡くなったのですが、母の遺言書が出てきました。これから先、相続財産を分け合っていくと思うのですが、ドラマのように姉妹で争いあったりしそうで嫌なのです。

そもそも相続手続きって必ずしなければならないのでしょうか?

 

森弁護士:そうですね。相続手続きをしない場合、いくつかトラブルに巻き込まれる可能性があります。

例えば、お母様が多額のローンや借金がある場合には、相続人である岡田さんに借金の返済を求められる恐れがあります。他方で、お母様が不動産をお持ちの場合であっても、岡田さんが独自に処分することはできません。

 

岡田:思っていたトラブルと違いますけど、母の財産を処分できないのは、確かに困りますね。相続ってなんだか慌ただしいイメージがあるのですが、実際どうなのでしょうか?

 

森弁護士:確かに、相続手続きにはいくつか期間制限がありますが、慌てることはありません。岡田さんがふまえるべき相続手続きを一緒に確認してまいりましょう。

ご持参いただいた遺言書は、お母様の自筆のものでしょうか。

 

岡田:はい。母が書いたものです。封もしていないそっけないものですけど。

 

森弁護士:お母様が書かれた自筆証書遺言は、お母様の最期の住所地家庭裁判所で、検認という手続きを行う必要があります。検認は、遺言書の偽造や変造を防ぐために行う必要があるのです。

 ちなみに、封印された遺言書をその場で開封した場合、過料が課される場合がありますので、絶対に開封してはいけません

 

岡田:相続ものドラマは見ているのですが、検認は初めて聞きました!

 

森弁護士:はい。もっとも、お母様の遺言書は封印されていないため問題となりませんからご安心ください。

次に岡田さんがすることは、遺言書の内容を確認したうえで、3ヶ月以内に3つのうちいずれかを選択して、家庭裁判所に申述をすることになります。

①遺産をすべて相続する単純承認

②相続によって得た財産の限度でお母様の借金を受け継ぐという限定承認

③すべて相続を放棄する相続放棄の3つです。

 なお、注意して頂きたいのは、相続放棄は借金といったマイナスの財産を相続しなくてもいい反面、お母様の預貯金等といったプラスの財産も相続できなくなります。

ですからマイナスを差し引いてもなお相続するメリットがあるかどうかという点も踏まえてお考えになってくださいね。

 

岡田:3ヶ月経つ前に、調べて考えなければいけないって結構しんどいですね。

 

森弁護士:もし岡田さんがいずれかを決定できないときには、家庭裁判所に申述をすれば、さらに3ヶ月ほど期間を伸張することはできます。

 

岡田:家庭裁判所に言えば期間を延ばしてもらえるのですね。

でも、相続するメリットが残りそうかなんてどうやって調べたらいいのでしょうか?

 

森弁護士:今回はお母様の遺言書があるので、基本的にはこの内容を中心にして相続人や遺産を調べることができます。もっとも、他に相続すべき財産について調査する必要があれば、こちらで並行して調べていきます。

それでは遺言書を拝見してもよろしいですか?

 

岡田:はい、お願いします。

 

森弁護士:なるほど。形式などは整えられていますね。いくつかある不動産の表示については、わかりやすいように、番号を振ってしまいましょう。お母様の相続人や遺産を確認できる部分を簡単にまとめるとこのようになります。

遺言書

(1)3から6までの土地は岡田一家の相続とする。

(2)1,2の土地は「岡田B子の相続とする」

(3)7の土地は「岡田B夫に譲る」

(4)8の土地の花子の持分4分の1を「丙野C子に相続させてください。」

 

森弁護士:ここに記載されている方との関係を伺ってよろしいでしょうか。

 

岡田:はい。うちの関係は、このようになっています。
2015.9.8_相続させる旨の遺言(画像).jpg

【相続関係図】

→すでに亡くなっている方 ◎→相続人

この遺言書に従うと、岡田さんご家族が遺産のほとんどを相続するようですね。

 

岡田:そのようです。だから、姉から恨まれやしないかと冷や冷やしているのです。もっとも、この遺言書のとおりに相続できるなら、私は相続しようと思っています。母は不動産の賃貸などをしていたので、私もそれを引き継ぎたいのです。

 

森弁護士:そうですか。それでしたら、お母様は確定申告をしている方でしょうから、岡田さんは、相続の開始があったことを知った日翌日から4か月以内準確定申告をする必要があります。その年の1月1日からお母様が亡くなられる日までに確定した所得税の清算を、お母様に代わって相続人がするわけですね。

 

岡田:確定申告って2月か3月だと思っていました。気を付けます。

でも、実際に遺言書どおりに相続できるものなのでしょうか。

姉からは、「お母さんはせっかちだから、私たちの代わりに遺産を分ける方法を書いただけだから、残された私たちが遺産分割協議をしないと、最終的に相続財産を分けたことにならないでしょ」って言われまして。そうだとすると、やっぱり協議をすることになるのでしょうか?

 

森弁護士:結論から言うと、協議をすることなく岡田さんが遺言書の通りに相続することができます。お母様の遺産ですから、遺産分割の仕方についてもお母様が自由に指定することができるのです。

もっとも、相続人全員が一致すれば、お母様の遺言に反する内容の協議をすることはできます。お母様が遺言を残された意志は、結局、相続人同士で無用な争いが生じることを避けることにありますから、全相続人の意思が一致しているなら争いは生じませんよね。

 

岡田:そうなのですね。姉A子の取り分が全然ないようなのですが、これでもいいのでしょうか?

 

森弁護士: たしかに遺言書のとおりにするとA子さんの取り分が全くありません。しかし、A子さんご自身が、遺留分減殺請求権を行使することで、自己の取り分を主張することはできます。

 その結果、A子さんの遺留分の部分は、減殺者であるA子さんと非減殺者である岡田さんとの共有状態になります。

 

岡田: ややこしいですね。

 

森弁護士:そうですね。ただし、この遺留分減殺請求権はお母様が亡くなってから1年以内に限って行使することができますから、その期間をこえて請求されることはありません。

 

岡田:なるほど。1年以内に姉から遺留分というものを請求される可能性があるのですね。

他に気を付けるものはありますか?

 

森弁護士:そうですね、相続税の申告にはお気を付けください。

課税対象となる財産から基礎控除をして、なお財産が残る場合には、相続税が発生します。基礎控除の具体的な内容は、以下の通りです。

 

 3000万円+600万円×法定相続人の数  

 

この法定相続人の数は、相続放棄をした者がいても、その者も含めた数です。(なお、法改正について十分ご留意ください。)

 

岡田さんの場合は、法定相続人が5人ですから、基礎控除額は6000万円になります。仮に、お母様の遺産がこの額を上回る場合には、被相続人であるお母様が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告する必要があります。

 

岡田:遺産がいくらになるといった計算なども手伝ってもらえますか?

 

森弁護士:そうですね。税理士と協力しながら、課税対象となる財産は何か、特例の適用がないかというところからお調べいたします。

 特例について、ひとつ例をあげれば、小規模宅地等の特例と言って、面積が一定の限度内であれば相続税が減額されるといったものがありますから、岡田さんの不動産にその適用がないかも検討しましょう。

 

岡田:相続って思ったより手続きも多いですし、期間制限もあって大変ですね。親族でトラブルならないようにと、そればっかり考えていましたが、現実的な手続きの連続でそれどころではないですね。

 

森弁護士:確かに手続きも大変ですが、やはり、相続問題はのちのちのトラブルを招きがちです。相続人それぞれで、遺産をどうしたいかという気持ちが、時間の流れとともに変化することもありますからね。

だからこそ、できるだけ早い段階で資料を集め、各相続人が納得した遺産の分け方をできるよう決着をつけておくことが、そのようなトラブルを避けることになるのです。

今が正念場と思って、一緒に頑張っていきましょう!

第5話 「お父さん、オレ尽くしてきたよ!」

相談者:町田さん 兄弟との相続に悩む公務員(以下、「町田」という。)
解答者:森弁護士 まだまだフレッシュな新人弁護士

町田
:父が亡くなり、遺言もなかったので、兄弟とだいたい9,000万ほどある遺産の分け方について話し合っているが、決着がつかないのです。兄弟は私を含めて3人おり、母は既に亡くなっています。
 ほかの兄弟は平等に分割しようって言ってきているのです。でも正直なところ、老年の父を支えてきたのは私たち長男夫婦なものですから、他の兄弟より多く相続できるのではないかと思っているのですよ。

森弁護士
:相続財産について協議をされている段階なのですね。
 早速ですが、町田さんがおっしゃった、「お父様を支えてこられた分、多く相続できるかどうか」は、町田さんに寄与分が認められるかどうかが問題となります。

 寄与分とは、被相続人つまり、財産を相続させるお父様の遺産を増やした、あるいは、減らさないように貢献した相続人がいた場合には、その相続人にその相続分以上の財産を取得させようとする制度です。寄与分はそのような制度ですから、寄与分を維持、あるいは、増加させた関係性が必要です。
町田さんがお父様を支えてこられたことが寄与分にあたるとすれば、結果的に、遺産の中から、他のご兄弟より多く財産をもらうことができます。

町田
:その関係性がないときには、寄与分が認められないのですか?

森弁護士
:はい、そうなのです。

町田
:なるほど。それで、兄弟との話し合いは今後どうやって進めていけばいいのでしょう?

森弁護士
:寄与分を定める手続きは3つありまして、共同相続人、すなわち町田さんのご兄弟とで、どのように遺産を分配するか協議をする方法です。
仮に協議が調わない場合には、協議に代わる処分を家庭裁判所に求めることが出来ます。これが審判の請求です。通常はこれに先立って調停が試みられます。

町田
:今は協議が決まらない状況だから、調停をすることになるのですね。それでその寄与分はどう認められるのですか?

森弁護士
:寄与分の内容は、療養介護その他の方法により相続人の「財産の維持又は増加」について特別の寄与をした者に認められます。
 この特別の寄与とは、親子として扶養する範囲を超えて均等な法定相続分遺産分割することが不公平と考えられる程度の寄与を言います。
 たとえば、お父様が認知症だったとのことですが、町田さんがお父様の療養看護をしたことや、お父様に代わって財産の管理をしたといったことはありますか?

町田
:ありますとも。
(1)父が死ぬ4年前から認知症の症状が重くなり、食事の世話や排泄の介助をし続けたのは私たち長男夫婦です。
(2)それに私は実家を購入する際にも一定額をだしていますし、家の修繕費をあわせれば3,000万円近く出しているのです。
(3)なおかつ、私は公務員の傍ら、父の農業を手伝っていました。
これだけやっているのだから、僕の寄与分は相当大きいと思いませんか?

森弁護士:寄与分がどれほどになるのか、これから見ていきましょう。
まず寄与分算定の方法ですが、療養看護については、現在、一般的には寄与分に相当する金額を定める方法によって算定されています。

町田
:そうすると、私のした介護はどうやって金銭に換算されるのでしょうか?

森弁護士
:はい。順番にお話ししていきます。
まず、(1)町田さんが介護をなさった「療養看護」について、具体的には、
 ①療養看護の必要性
 ア 療養看護を必要とする病状であること
  イ 近親者による療養看護を必要としている

  ②特別の貢献(財産を相続される者との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献
  ③無報酬又はこれに近い状態で相当期間継続して行われた
 ④専従性(療養看護の内容が片手間なものではなく、かなりの負担を要するものである)
ということが備わっている場合に特別の寄与に当たると言え、寄与分が認められます。
 つまり、単に同居し、家事の援助を行っただけでは、特別の寄与とは言えないのです。

町田
:そうなのですね。私の場合は、父が亡くなる4年前から、認知症が重くなり、最初の3年ほどは、自宅で排泄などの介助をしました。そのうち父が要介護認定2の認定を受けたので、デイサービスを利用し、私は毎日その送迎をしていました。
ぁ最期の1年は、要介護認定3を受けましたので、兄弟と相談して父を病院に入院させ、そこではじめて兄弟と当番制で介護に当たりました。

森弁護士
:それは大変でしたね。
 療養看護の判断の対象は、デイサービスを利用した以外で、自宅で町田さんご自身がお父様を療養看護なさったことですが、総合的にみて、町田さんには特別な寄与があると思われます。
 以上のことは、大阪高等裁判所平成19年12月6日の審判を参考にしています。

町田
:よかった...。いやまぁ、私に特別の寄与はあるでしょうけど、実際は何がどう変わるのですか?

森弁護士
:町田さんが実際、療養看護した分が、相続財産から払われることになります。
 というのも、お父様が第三者に介護を頼んだ場合は本来お金がかかるところ、息子である町田さんが実際に療養介護を引き受けることで、お父様はそのお金を払わずにすんでいます。
 ですから、このお父様が支払いを免れた分が、相続財産として町田さんに分配されるのです。
 より詳細に言えば、「第三者の日当額×療養介護日数×裁量的割合」により、町田さんの貢献分、すなわち寄与分に相当する金額を算定することになります。

町田
:その裁量的割合っていうのはなんですか?

森弁護士
:これは、療養看護をする第三者は、基本的に有資格者であり、その者へ頼んだ場合の報酬と、扶養義務を負うご家族への報酬は、おのずと差がでるものですから、裁判所が裁量的に、その差額を調整するための割合のことです。

町田
:へぇ、なるほど。それじゃ介護をしていた私に代わって、業者が介護したらかかる日当額に、介護した日数をかけて、あとは裁判所が判断する割合で多少は減るかもしれませんが、とにかく僕の寄与分として返ってくるのですね。

森弁護士
:その通りです。
 残りのご実家の取得や維持管理にある程度お金を出したとのことですが。

町田
:そうそう、(2)修理費なんかは父が亡くなった後に出したのですが、家のことですし含まれますよね?

森弁護士
:いいえ、含まれません。たとえお父様の家の修繕だったとしても、寄与分の算定は、被相続人、つまりお父様の生前に貢献した分を対象としますので、寄与分の算定には含まれないのです。

町田
:あぁそう言われればそうですよね。
あ、じゃぁ(3)農業を手伝った分はどうです?

森弁護士
:そうですね、町田さんは公務員の傍ら農業をされていたとのことなので、専業で農業を手伝われた場合に比べれば低く見積もられる可能性があります。
 これらの寄与分がどのように計算されるかはまだわかりませんが、さらに詳細な想定をするために、具体的な資料をお持ち下さい。

町田
:わかりました。それで寄与分が決まったとしたら、兄弟とは実際どうやって相続することになりますか?

森弁護士
:具体的な相続分の算定方法の一例ですね。下の計算式を参考にご覧下さい。

2015.8.19_寄与分(画像1)572-196.jpg

まず、町田さんの寄与分が認められると、お父様の遺産は、お父様ご自身と町田さんが貢献した財産が合わさったものといえます。
 ①そこで、公平に遺産を分配するための出発点として、お父様だけで築かれた遺産総額を出します。つまり、町田さんの貢献分を差し引いた遺産ですね。これをみなし相続財産と言います。
 ②次に、このみなし相続財産に、ご兄弟の法定相続分の割合をかけあわせることで、ご兄弟それぞれが均等に遺産を相続することになります。
 ③最後に、他のご兄弟と異なり、遺産を築くために貢献した分を町田さんに返します。つまり、町田さんの貢献した寄与分を先程だした兄弟としての相続分上乗せします。
 こうすることで、町田さんはお父様の財産に貢献した分、他のご兄弟より多く遺産をもらえることになるので、他のご兄弟と公平が図られた相続をすることができます。

町田
:よかった。いやまぁまさかここまで細かく計算するとは思いませんでした。相談してみるものですね。

森弁護士
:はい、寄与分の算定のためには、その算定の基礎となる証拠を集める必要があります。それらはお父様が生前の、すなわち過去の資料を集めることになりますから、できるだけ早く集めていただくほうが望ましいでしょう。
 もっとも、実際に何を集めればいいか予測を立てるためにも、やはり弁護士にご相談なさったほうが良いと思われます。

(こうして町田さんとの打ち合わせは続く。がんばれ森先生!

byもみじ事務員・M嬢)


第4話 「預金は私、借金はあなたに?!」

相談者:加藤さん 怒れるサラリーマン
解答
者:森弁護士 フレッシュな若獅子弁護士


20150810預貯金あり(画像1)569-340.jpg

加藤私は離婚した妻から、財産分与として、預貯金の半分をくれと言われています。しかし,ローンの返済だって残っているし,そういうことも考慮して財産分与をしてもらえないかと思って相談した次第です。


弁護士:財産分与の算定方法についてご相談ですね。
まず確認させていただきたいのですが,離婚に際して,慰謝料や扶養等はどうすると言ったお話はありましたか?

加藤
:いえいえ,そんな話はありませんね。お互いに離婚については納得していますし,子供もいません。共働きなので扶養とかそういうのもないです。とにかく結婚中にできた財産をどうわけるか、という話しをしているのです。


森弁護士
財産の清算ということですね。それでは、結婚中に夫婦で協力して作られた財産の内容について教えてください。

加藤
:はい。今ある財産は,ローン付の家と1,500万円の預貯金があり、どちらも私名義のものです。ただこの家がね、今売ったら1,500万円になるそうなのですが、住宅ローンの支払いが2,000万円残っているのです。
だから家を売ってローンの返済をしても、私には500万円の借金が残るのです。こういうのをオーバーローンって言うのでしょ?ひどい話ですよ。
ぁそれよりひどいのがうちの元妻でね。ローン付の家はいらないから,預貯金を半分よこせって言ってきているのです。どうにかなりませんか?

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森弁護士:住宅ローンが残っているがなお預貯金によってプラスの財産が残る場合の財産分与ですね。

家は売るつもりならば、これから先、どちらかが家に住むつもりもありませんね?

加藤
:はい。

森弁護士
:わかりました。財産分与の基準ですが、基本的には財産は半分ずつ分け合うということです。
まず、奥様の言い分を整理します。

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加藤:そうなのです。でもね、妻に預貯金を持っていかれると、私には750万円しか残らず、しかもそのうち500万円は借金でなくなると考えると、手元には250万円しか残らないのです。

 それに対して、妻は私の貯金まるまる750万円を持っていくのです。
 家のローンは私たち2人の結婚生活のために購入したのです。
「お別れするから私は残りの借金分は払わないわよ」なんて、どう考えても不公平でしょう?!
 財産分与をするにしても、妻にも住宅ローンの分を負担させることはできないでしょうか?


森弁護士
:結論から言うと、住宅ローンの残りである借金について、元奥様に負担して頂くことはできます。

加藤さんのように、①不動産がオーバーローンの状態で、②預貯金等のプラスの財産がある場合、プラスの財産の総額から,マイナスの財産である住宅ローンの残額を引きます。そうしてプラスの財産がある場合には、その財産を分与するということになります。結婚生活で協力してできた財産は、プラスもマイナスも、協力した分ずつ清算するのが当事者間で公平だろうと考えるわけです。

 加藤さんの場合には,こういうことです。

20150810預貯金あり(画像4)1344-624.jpg




加藤:おうおう,そりゃいいですね!元妻と500万円ずつ分与しあうことになるわけですね。
 え
?ちょっと待てよ。半分ずつってことは、もしかして私が離婚するまでに支払ってきたローンの半分妻に請求できるのではないですか?

森弁護士
:基本的には、請求できないと思われます。オーバーローンの場合、住宅の価値はゼロと評価されます。ですから、ローンの返済結果は、プラスの財産として残っていないと判断され、財産分与の対象にはならないのです。

加藤
:そうなのですね。とにかく、私は妻の思う通りにさせたくありません。こっちがより有利になるようお願いしますよ。

森弁護士
:もちろん私たちは、依頼者である加藤さんの正当な利益を最優先に考えて、あらゆる方策を考えてまいります。
 も
っとも、加藤さんご自身も、まずは奥様との協議にむけて感情をおさめ、一度冷静になって、奥様とどのように話し合うべきか考えてみてください。
 財産分与は、ご夫婦が協力し合って、これまで築き上げた財産を分け合う制度です。まずはその財産を築いてこられたご夫婦それぞれが、冷静に、どうしたいのかすべて吐き出すべきです。

加藤
:そうですね。感情的になりすぎていたかもしれません。森先生、打ち合わせよろしくお願いします。

森弁護士:よろしくお願いいたします。


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第3話 「離婚したのに、住宅ローンを払えって?!」

相談者:佐藤さん(以下、「佐藤」という。)ちゃっかり者の悩める主婦 

解答者:森弁護士 フレッシュな若手弁護士 


 佐藤:私は、離婚した前夫と財産分与でもめています。

結婚していたときに買った家は売るつもりなのですが、ローンを払いきれないそうで、夫からその残りのローンを半分払えと迫られているのです。突然訴えられたりしそうで怖いです。

 そもそも財産分与って、どうやって決まるのですか?


 森弁護士:財産分与の手続きの方法は、3つありまして、当事者間、つまり佐藤さんと元旦那様とで、どのように財産を分配するか協議をする方法です。

 仮に協議が調わない場合には、協議に代わる処分を家庭裁判所に求めることが出来ます。これが審判の請求です。通常はこれに先立って調停が試みられます。

 もっとも、財産分与の請求権は、離婚時から2年間という期間制限があるので、そこはご注意下さいね。


 佐藤:話し合いなんてしていたら2年なんてあっという間ですね。その裁判所での処分って具体的に何をするのですか。


 森弁護士:家庭裁判所が、当事者双方、すなわち佐藤さん元ご夫婦が、婚姻生活の中で、その協力によって得た財産の額等一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることになります。


佐藤:協力によって得た財産といっても、そもそも家は前夫名義なのだから、私は関係ないですよね?


 森弁護士:基本的に、財産の名義のいかんは、財産分与の判断に影響しないと考えて良いです。財産分与は、結婚生活で作られた財産をいかに分けるかが問題なので、名義がどちらにあっても財産分与の対象になる場合はあります。


 佐藤:そうなの!?一切の事情って一体何を考慮しているのですか?


 森弁護士:財産分与で考慮される一切の事情の中身は、財産分与が行われる理由に深く関係します。財産分与の核心は、「結婚生活でできた財産を清算」であって、「離婚後に扶養をする」、「離婚時に被った損害を回復する慰謝料を求める」ことが補助的に考慮されます。

 佐藤さんの場合、離婚の際に、慰謝料であるとか、養育費等の扶養を求めるといったお話はありましたか?


 佐藤:いいえ、そういった話はありませんでした。双方納得の上で離婚を決めたことなのです。子供もおらず、共働きなので、慰謝料やら何やらというお話はありませんでした。


 森弁護士:それでは佐藤さんの財産分与は、「一切の事情」の中で、ご夫婦のときに作られた財産をいかに清算するかを考慮することになります。

  そこで、ご夫婦の時に作られた財産の内容にお教えください。先程おっしゃった住宅は、どのような内容で購入されたのでしょうか?


 佐藤:2,000万円の中古住宅を住宅ローンで購入し、支払いも夫がしています。前夫が言うには、残っているローンが1,500万円なのに、家の価値はもう1,000万円ぐらいしかないそうです。


 森弁護士:オーバーローン、つまり、こういう状態ですね。


オーバーローン

     住宅ローンの残額が、住宅の時価を上回ること。


オートシェイプ: 住宅ローン
    >

 


 


       残り -1,500万円          時価 1,000万円


⇒家を売ったとしても、ローンを払いきれず借金(-500万円)が残る。


 佐藤:そうなのです。


森弁護士:他に結婚生活で作られた財産、例えば預貯金などはありますか?


佐藤:いいえ、ありません。前夫とは、最後までお金のことでもめて貯金を作る余裕はなかったのです。


森弁護士:オーバーローンの状態で、預貯金もない場合ですから、佐藤さん元ご夫婦の財産は、借金のみということですね。

  住宅をご購入の際に、佐藤さんが連帯保証するとか、結婚前に貯めた自分の財産から支払いを助けたということはありましたか?


佐藤:いいえ。連帯保証人にもなっていませんし、ローンの頭金は、結婚資金の一部から出したので、特に自分の貯金から払うということもありませんでした。

  こうして考えると、何にもしていない私は借金を負担するということになるのでしょうか?


森弁護士:結論から言うと、佐藤さんがその借金を支払う義務はありません。


佐藤:そうなのですか!?でも、前夫からは,家は夫婦の生活のために買ったのだから,そのための住宅ローンも半分にすべきだろと言われたのです。


森弁護士:たしかに、財産分与は、夫婦共同生活で協力し合って作られた財産をお金に換算して、そこから借金といった負債をさしひいて、なおプラスの財産が残る場合にはそれを半分ずつ分け合うという方法がとられます。

  しかし、佐藤さんの場合には,夫婦の共同生活の中で他に預貯金といったプラスの財産はなく、オーバーローンという借金、つまりマイナスの財産だけが残っている場合です。

  このような場合には、基本的に前夫が佐藤さんに対して500万円を負担しろと請求できないと考えておいていいと思います。


佐藤:考えておいていいって、それって先生の見解なのでしょ。裁判所も認めてくれるのですか?


森弁護士:例えば、平成24年の裁判例でもオーバーローンの不動産は財産分与の対象にならないとの結論が維持されています。


佐藤:どうして私は借金を負わなくてもよくなるのでしょうか。


森弁護士:誤解をおそれず言うと,プラスの財産からマイナスの財産を引いて,マイナスしか残らない場合,そもそも,夫婦で「分」け「与」えあうべき「財産」がないため,そのマイナス分をわけあうことはできないと説明することができます。


佐藤:なるほど,それならわかります。

よかった。それでは夫の言う通り、私は払わなくてもいいのですね。


 森弁護士:はい。仮に裁判になったとしても、前夫から佐藤さんへの請求が認められる可能性は低いでしょう。

  しかし、注意していただきたいのは、財産分与の手続きにある、協議や調停の段階で、佐藤さんが旦那さんとオーバーローンの借金を負担すると合意してはいけないということです。


佐藤:え?どういうことですか。


森弁護士協議や調停の段階で、たとえばご夫婦で借金を負担しあうと合意すれば、その合意の通り佐藤さんは500万円の借金を背負うことになるのです。


佐藤:そうなのですね。わかりました。前夫のいいなりになるところでした。

心して協議にかかっていこうと思います。ありがとうございました。


森弁護士:ありがとうございました。

ご夫婦の財産が、財産分与の対象になるのかどうか、まずは弁護士にご相談なさるのがよいと思われます。


佐藤:先生、だ、だれとお話しているのですか?


 森弁護士:おっと、失礼。ホームページ画面の向こうの方とお話していました。


 佐藤:あら、出演料ってもらえます?


 森弁護士:・・・・・。












第2話 「とにかく別れたいのです!」

 

相談者:田中さん せっかちな悩めるサラリーマン

解答者:森弁護士 まだまだフレッシュな若獅子弁護士

 

 

田中:私には結婚して9年たつ妻がいます。しかし、もう今では別々に暮らしており、夫婦として互いを思いやる気持ちはこれっぽっちも、一ミリも残っていません。先生、私はこの妻ととにかく離婚したいのです。

 

森弁護士:田中さんは、どうして離婚したいと考えるようになったのですか?

 

田中:私には、他に待ってくれている女性甲さんがおり、その女性と早く結婚したいと思っているのです。

私が、妻に離婚したいと話してからは、妻の態度は目にみえて冷淡になり、私は耐え切れなくなって家を出ました。別居してもう2年4か月経ちます。

 

森弁護士:奥様は、田中さんの離婚の申し出に対して、どのようにお答えになったのですか?

 

田中:妻は、私と一緒に暮らしたいとは思っていません。しかし、妻は病気を患っているので、就職をして収入を得ることが難しく、将来の金銭的な不安と子供のために別れたくないと答えていました。

 

森弁護士:お子さんがいらっしゃるのですね。おいくつでしょう?

 

田中7歳になるかわいい長男が1人います。別居してからは全く会えていませんが。

 

森弁護士:それでは、現在に至るまでの事情を整理させてください。田中さんが奥様に離婚をしてほしいとおっしゃった時には、もう甲さんと性関係をお持ちだったのでしょうか?

 

田中:そうです。

 

森弁護士:つまり、ご夫婦の結婚生活が破たんするまでに、まず田中さんが甲さんと交際に至り、そのことが原因で、ご夫婦の結婚生活が冷え込んだのですね。

 

田中:そうですが、でもそれだけじゃありません。妻はひどい潔癖症で、私はそんな妻との生活にほとほと疲れてしまったのです。先生、妻とはこうなってしまって残念ではありますが、すぐに離婚できますよね?

 

 

森弁護士:結論から言うと、今の段階で裁判になった場合、田中さんからの離婚請求は、認められる可能性が低い状態です。

まず、田中さんの場合に認められる離婚事由は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があることです。このような事由が認められるのは、たとえば、性格の不一致で客観的にも結婚生活が破たんしており、将来的にも修復が困難と認められる場合があげられます。

 

田中:先生、わたしたち夫婦の結婚生活はとっくの昔に破たんしているのです。離婚できるのではないですか? 

 

森弁護士:たしかに、現在の田中さんご夫婦の結婚生活は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるといえるほど、客観的に破たんしているといえるでしょう。

しかし、ここでの問題は、この事由に基づく離婚請求をするのが、あなただということです。つまり、裁判所からは、結婚しているときに、あなたが不貞行為に及んでいるため、田中さんあなたに結婚生活を破たんさせた主な責任があると判断されてしまうのです。

法律上は、婚姻中に不貞行為をした者を「有責配偶者」といい、田中さんはこの有責配偶者にあたることになります。

 ですから、有責配偶者からの離婚の請求は、信義に反すると言うことになり、認められないのです。

 

田中:ええっ!有責配偶者と判断された私からだと、離婚の請求をすることは全くできなくなるのでしょうか?

 

森弁護士:落ち着いてください。有責配偶者からの離婚請求が認められる場合はあります。もっとも、この有責配偶者からの離婚請求が許されるかは、先ほどから申し上げている信義誠実の原則に照らして許されるかどうかによって判断されるのです。

 

田中:あぁ、それなら信義誠実ならあるでしょう。私は出ていったあとも、妻子が生活に不自由しないようにと、毎月欠かさず生活費を送金しています。それだけじゃありません。自分が住んでもいない家の家賃や光熱費だって払っています。

それに、妻の度が過ぎる潔癖症にも、結婚生活を破たんさせた責任の一端があるのに、私はこんなにも誠実な対応をしているのです。

 

森弁護士:確かに、田中さんの責任の態様や程度も信義誠実の原則に反しているか判断する要素になります。

 しかし、それだけではなく、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか、②ご夫婦の間にいる未成熟子がいるか、③奥様が、離婚により、精神的・経済的に極めて過酷な状況に置かれるか等も総合的に考慮されなければなりません。

田中さんの場合、

① 同居期間は約7年であり、別居期間は約2年であることから、双方の対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと、

② 7歳という未成熟子がいる事、

③ 奥様は、ご病気により収入を得ることが難しいなどのことから、離婚により精神的・経済的に過酷な状況に置かれることが想定されます。

 

 したがって、田中さんからの離婚請求が認められるのは難しい状態ですよ。

 

田中:いやいや、妻とはこれから先、一緒に住むこともないのですよ。結婚している意味さえないのに別れられないなんて、納得できません。

 

森弁護士:田中さん、ここまでのお話は、現状、今の状態で裁判になった場合のお話です。別居期間があと数年続くことで、田中さんからの離婚の請求が認められることもありえます。

 

田中:私は元来、短気でして、待つのは嫌いなのです。あと数年もこのままなんて!!耐えられません!

 

森弁護士:田中さん、落ち着いてください。

 今までお話したことは、最終的に離婚裁判になってしまった場合の裁判官が判断したときの結論ということです。

 ただ、現実の離婚の現場では、裁判離婚という結末にいたることは、少ないということも、これもまた事実です。

 離婚という決着をつけるステージというのは、実は、主に3つありまして、(1)協議(2)調停(3)裁判というステージがあるのです。

 そして、離婚が成立するうち、90%ほどが協議離婚、裁判の前には必ず行われる調停で約8~9%です。裁判離婚は、全体の1%ほどしかありません。

もちろん、相手があるわけですから、必ず実現できるというものではありません。しかし、奥様に誠意ある対応を粘り強くすることで、離婚という結果を勝ち取ることだって不可能ではないのです。

一度は真剣に田中さんを愛した方なのでしょうから、奥様だって、田中さんの想いを受け止めて下さるかもしれませんよ。

 

田中:先生はお若いのに深いことを仰るのですね。感心しました。

 

森弁護士:いえいえ、私なんかまだまだ駆け出しですから。

 そのような私でも、「今できることが何か」を依頼者の方と一緒にしっかりと考えていきたいのです。

まずは奥様から離婚の同意を得るにはどうすればいいか、方法を考えていきましょう。

 

田中:そうですね...身勝手かもしれませんが、私、妻ととにかく別れたいのです。先生にだけは、その熱意をわかって欲しくて...

 

森弁護士:熱意ですか...それは、十分に伝わりましたよ。

 田中さん、急がば回れですよ。一緒に悩み、そして、あなたのあるべき人生を切り開いていきましょう。


第1話 「99.9%でもダメなの!?」

 

相談者:山本さん 恋多き悩める主婦

解答者:森弁護士 フレッシュな新人弁護士。

 

山本:私には、3歳になるかわいい子供、丙ちゃんがいます。丙ちゃんは、当時結婚していた甲との子供ではなく、ほかに恋してしまった仕事もバリバリする男性、田中さんとの子供なのです。

だから、戸籍を届ける時には、「田中の子」として届出ました。しかし、お役所からは、当時結婚していた夫、「甲の子」としてしか受理できないと言われてしまい、しぶしぶそのまま届け出たのです。

ちなみに、DNA検査でも、99.999998%の確率で、「前夫甲と子供」に血のつながりはないと結果が出ています。

先生、丙ちゃんは甲の子供ではありえないのだから、「甲と子供丙ちゃん」の戸籍はもちろん切り離せますよね?

 

森弁護士:山本さん、残念ながら前夫甲さんと丙ちゃんの戸籍を切り離すことはできません。

まず、山本さんと前夫甲さんが結婚して200日以降に丙ちゃんが生まれた場合、形式的には甲の嫡出子として推定されるのですが、この場合、嫡出否認の訴えという方法で争うことができます。しかし、この方法には期間制限があります。

 

山本:そんな...期間制限って、いつまでですか?

 

森弁護士:嫡出否認の訴えは、甲さんが丙ちゃんの出生を知った時から1年です。したがって、丙ちゃんが生まれてから3年以上経つ現在では、この訴えをすることはできません。

 

山本:でも、丙ちゃんは、明らかに甲ではなく「田中さんの子供」です!それなのに裁判所の都合かなにか知りませんが、争えないのはひどいじゃないですか。

 

森弁護士:今回は、「推定される子」場合ではなく、「推定が及ばない子」として、いかに親子関係の推定を排除できるかどうかが問題となります。

要するに、外形上明らかに甲の子ではないといえた場合には、この推定を排除することもできるのです。

 

山本:それなら先生、DNA検査でも99.9%の確率で、甲が丙ちゃんの父親じゃないと明らかになっているのだから、当然その推定も排除できるのでしょ?

 

森弁護士:この推定が排除できる場合というのは、夫婦生活を全くすることができない場合に限られているのです。

 

山本:安心してください。田中さんと交際してからは、ここ数年、元夫の甲とは寝室も別ですし、甲と手さえ触れないようにしていたくらいですから。

先生の言う夫婦生活は全くいたしておりません。

 

森弁護士:山本さん、落ち着いてください。推定が排除できる場合とは、たとえば、夫が刑務所に入っている場合や、長期間の海外主張中である場合など、外観上明らかに夫婦生活を営むことが出来ない場合に限られるのです。

 山本さんの場合には、同居されていますよね。したがって、推定を排除するほど、外形上明らかなものとはいえないのです。

 

山本:そんな...DNA検査もしたのに...。99.9%でもダメなの!?

 

森弁護士:裁判例では、今回と同様の事案において、たとえDNA検査で親子関係にないとの結果がでていても、お二人の婚姻中に子供が生まれたのであれば、この推定が及ぶとされています。

したがって、今回もこの推定を排除することは難しいと思われます。

 

山本:それで結局、嫡出否認の訴えだと、争えないのですよね?

でも、DNA検査で血縁関係が否定されているのに、親子関係を戸籍に反映させるのが普通なんじゃないですか?

私は、前夫甲から戸籍を切り離して、父親の部分を本当の父親の田中さんに変えたいのです。先生でもなんとかならないのですか。

 

森弁護士:山本さん、これまでしたお話は、あくまで訴訟になった時のお話です。

その前に行われる「調停」であれば、相手方「甲さん」が丙ちゃんと親子関係にない同意をすれば、甲さんと丙ちゃんの戸籍を切断することができるのです。

 

山本:調停の中で、甲の同意があればできるのですか?

 

森弁護士:はい、できます。

 

山本:わざわざ裁判所まで行って調停するのですか。同意さえとれればいいのだから、私たちの協議でもいいのではないですか?

 

森弁護士:いいえ。協議ではなく、調停での同意が必要となります。

相手方である前夫甲さんが、丙ちゃんと親子関係にないことに同意し、家庭裁判所によって、必要な調査等を行って、その合意の相当性が認められれば、山本さんの望みを叶えることはできるのです。

つまりですね、この調査においてDNA検査の結果が活かされると思われます。

 

山本:そうなのですね。森先生、とっても素敵ですね。今度、お食事でもどうで...

 

森弁護士:ゴホッご、お食事は、ご勘弁ください。今日はご相談いただきありがとうございました。